インパクトレポート2021年度

コロナ禍によって激増した「おてらおやつクラブ」への支援要請。 配送システム開発と多くのご支援によって、難局を乗り越えた。

コロナ禍による社会的影響の長期化

コロナ禍による社会的影響は長期化しており、生活困窮者のくらしを直撃しています。2021年度、おてらおやつクラブ事務局には、地域にある困窮家庭を支援する団体を介さない、直接的な支援(以下、直接支援)の要請が、全国5,943世帯(前年比345.5%)から寄せられました。 なお、ビフォーコロナの2019年度の直接支援家庭は351世帯であったことから、コロナ禍前後では支援規模は16.9倍となっています。
おてらおやつクラブの支援の仕組み
直接支援世帯数の推移

社会とのつながりが希薄な層へ支援が拡大

では、どのような家庭への支援が拡大したのでしょうか。ここではおてらおやつクラブがロジックモデルで策定したアウトカムの評価から見てみましょう。
おてらおやつクラブのロジックモデル
アウトカム評価の一覧(スコアは5段階評価のTOP1)
おてらおやつクラブが実施した「直接支援調査」の各項目のスコアの推移を見ると、「行政・支援団体・寺院など、相談先が複数ある」はスコアが上昇し、反対に「人とのつながりを実感する」「困ったときにすぐに助けを求められる人や場がある」の2項目はスコアが低下しています。 項目間の因果関係は明確でないものの、調査での自由回答やSNSでのコメントの動向を見ていると、従来お寺との関係性が希薄であった生活困窮層へ支援が拡大していると思われます。

代表的なコメント

お寺さんと繋がっていられるのが精神的に一番良かったと安心出来る。子ども達のおやつまでなかなか買えないので、とても助かる。
お寺と聞くと頼っていいのかな?と思ったけど、頼れる場所があるって思うと1歩未来が明るくなった気持ちになりました。
つまりアウトカム評価からは、社会とのつながりが希薄で既存の支援制度にアクセスしづらい家庭が、おてらおやつクラブの活動に出会い、相談先が増えたように感じている、と解釈することもできるでしょう。 2021年度も「子どもの貧困問題」の解消に向けて、支援を必要とする家庭へのアウトリーチを進めてきました。その結果として、支援を求める人々との新たな縁が生じています。調査結果に表れているように、心理的な状況改善や、孤立・孤独感をすこしでも取り除くことができているのなら、うれしいことです。 さて、ここから先は、アウトカム評価をもたらした要因について検討を進めます。

配送システム開発で業務を分散化

激増する直接支援ニーズに応えるべく、おてらおやつクラブ事務局ではヤマト運輸株式会社の協力のもと、DX推進に着手しました。 具体的には、1,「おすそわけ」発送作業を分散させる「匿名配送システム」の開発と、2,賛同寺院・支援団体向け「物流管理システム」の開発です。 1により、全国どこの寺院からでも要支援家庭へ個人情報に配慮して「おすそわけ」を配送することが可能となりました。また2により、全国の寺院と支援団体を自動マッチングし、「おすそわけ」を配送することが可能となりました。
1. 匿名配送システムの仕組み
2.物流管理システムの仕組み
一連のシステム開発により、事務局に一極集中していた諸業務を全国の寺院およびボランティアへ分散することが可能となり、激増する支援要請に応えられる体制が整いました。
配送業務の分散率の推移
ボランティア参加者は、コロナ禍による三密回避により募集を停止したこともあり、昨年度は大幅に減少したものの、2021年度は前年比407.9%(のべ673名)と大幅に伸長しました。今後のボランティア募集については、システム適用の範囲を拡大して全国各地で参加できるよう仕組みを整えてまいります。
ボランティア参加者のべ数の推移(単位:人)
なお、当システム開発は、みてね基金からの助成金とNAIST(奈良先端科学技術大学院大学)の若手エンジニアたちとの連携により、実現したものです。
見てね基金

心理的に生活状況を改善する直接支援

おてらおやつクラブの直接支援を受給した家庭へのアンケート調査によれば、直接支援は経済的な状況改善(79.5%)に比べ、心理的な状況改善(95.6%)の方が高い傾向が見られます。それは、支援物資が「おそなえ」であり、支援者の思いやりをいっそう感じやすいことに起因するのでしょう。
心理的・経済的な改善状況の比較
また直接支援に関して、事務局では支援依頼が届き次第、なるべく早く「おすそわけ」をお送りし、安心してもらうことを心がけています。 先のシステム開発によって事務局の対応力は向上しており、「物流管理システム」データによれば、初回配送にかかる日数は「3日以内」が95.8%を占めます。そのことも、心理的な生活状況の改善に寄与するでしょう。 このように、直接支援の要請はコロナ禍により激増しているものの、支援の質を落とさないよう日々改善を重ねています。
初回配送にかかる日数の推移

支援団体の心理的状況も改善する
「おすそわけ」

おてらおやつクラブの「おすそわけ」は、連携する支援団体にも心理的な状況改善をもたらしています。2021年度に実施した「登録支援団体の意識と実態に関する調査」によれば、86.3%が心理的な状況改善に寄与したと回答しています。 また自由回答で得られたコメントからは、地域寺院との関わりがモチベーション向上に寄与している様子が垣間見えます。

代表的なコメント

おすそわけをご持参いただいた際に、ご住職様と色々話せ、応援しているとの言葉をいただいて心強く感じた。
お礼の電話の際、頑張って下さいなどのお声をかけて下さり、自分の活動を認めてくれる人がいると思うだけで、頑張ることができている。
今後も継続的に、各地で寺院と支援団体の関わりが深まるよう働きかけを行うとともに、自治体との連携を深め、地域を見守る目の充実を図りたいと考えています。
連携する自治体一覧(2021年3月末時点)

コロナ禍でも成長するネットワーク

2021年度、おてらおやつクラブの寺院ネットワークは1,796カ寺(前年比112.0%)、支援団体ネットワークは567団体(前年比111.6%)、毎月の子ども支援数はのべ22,431人(前年比114.9%)と堅調に推移しています。
寺院数および支援団体数の推移
昨今、寺院ではコロナ禍による葬儀・法要規模の縮小により”お供え物が減った”という声が散見されます。しかし当活動に関わる寺院が微増傾向にあることは、「子どもの貧困」問題へ関心が寄せられていることを示しているといえるでしょう。 なお、2021年度の寺院と支援団体の配送における同一エリア内マッチング比率(ヤマト運輸区分)は全国平均で73.0%、寺院と直接支援家庭の同比率は25.4%となっています。 これは例えば、北海道の支援団体の受け取る「おすそわけ」のうち、同一配送エリア内の占める割合は97.3%であることを示します。一方、直接支援家庭の受け取る「おすそわけ」のうち、同一配送エリア内の占める割合は28.6%であり、その他は北海道以外のエリアの寺院から「おすそわけ」が届けられていることを示します。つまり、いずれのスコアも100.0%となるとき、配送コストが最も抑えられた状態となるのです。
同一配送エリア内マッチング率(受取ベース)(単位:%)同一配送エリア内マッチング率(受取ベース)(単位:%)
今後も、寺院および支援団体の加入を促進していくことで、ネットワークの密度を高め、配送コストの抑制に取り組んでまいります。

長期化するコロナ禍、
いっそう寄付・寄贈の必要性は高まる

直接支援の伸長率が前年比345.5%であった一方で、寄付金は前年比127.4%(3,870万8,478円)、事務局への寄贈は前年比179.9%(52.2トン)となりました。 寄贈については、ユニリーバ、井藤漢方製薬、フェリシモ、石井食品、コスメバンク、MEJ、チェリオコーポレーション、おやつカンパニーなど企業・団体からのおそなえに加え、大阪府仏教青年会、滋賀教区浄土宗青年会など地域の青年会組織からのおそなえも大きな力となりました(敬称略)。
寄付金の推移
事務局に届けられた寄贈物資重量の推移
事務局では広報体制を強化しており、講演件数は140.0%(21件)、メディア掲載数は122.2%(55件)となりました。 なお、おてらおやつクラブは貴重な寄付金を可能な限り実質的な支援に充当したいという想いから、団体設立以来、広告宣伝費の支出はゼロとなっています。 「子どもの貧困」を取り巻く環境の変化について、メディア等のご助力をいただきながら、いっそうの周知を行い、激増する支援要請に応える体制を整えてまいります。
講演件数およびメディア掲載数の推移(単位:件)

認定NPO法人として、
団体の存在意義を再確認

2021年度、おてらおやつクラブは「たよってうれしい、たよられてうれしい。」社会の実現、をパーパス(社会的存在意義)と定め、ロゴリニューアルとガイドライン策定を行いました。 これは、支援する側/支援される側が立場を越えて、うれしい思いを共有できる社会を実現することを企図したものです。
おてらおやつクラブロゴ
その考えをもとに、冒頭のロジックモデルに一部修正を加えました。来年度は新たなロジックモデルをもとに、インパクト評価を行う予定です。
おてらおやつクラブのロジックモデル

おてらおやつクラブからのお願い

困りごとを抱えるひとり親家庭からの支援要請は加速度的に増大しており、おてらおやつクラブの運営は資金面で厳しさを増しています。皆様のご支援がいっそう必要な状況です。どうか、お力添えください。