【前編】バリューブックスさまにインタビュー 〜よりよい本の循環をつくるために〜

認定NPO法人おてらおやつクラブはさまざまな企業さまと連携を重ねて「子どもの貧困問題」の解決を目指しており、協力企業さまは私たちの活動継続に欠かせない心強いパートナーです。

私たちの活動を支えてくださっている企業さまに「おてらおやつクラブに協力する想い」についてインタビューをし、シリーズ企画としてお届けします。おてらおやつクラブに日々ご協力くださる企業さまの想いを深く知っていただくことで、子どもの貧困問題への多様な取り組み方・向き合い方について考えるきっかけになれば幸いです。

これまで、さまざまな企業さまにインタビューを行い、おてらおやつクラブを支援していただくことになった経緯や、支援を通じての思いなどをお聞きしてきました。ここでは最新のインタビュー記事を紹介します。

▼インタビュー記事 第4弾
フェリシモさまにインタビュー 〜ともに社会課題を解決していくために〜

▼インタビュー記事第5弾
内海産業さまにインタビュー〜企業から社会・未来の子どもたちへ〜

企業の皆さまとのこれまでの取り組みについては、下記URLよりご覧ください
https://otera-oyatsu.club/category/collab

第6弾の今回は、2014年から現在まで、「チャリボン」「ブックギフト」プロジェクトなど、本を通じて継続的に支援してくださっている株式会社バリューブックスの取締役である中村さんへ、おてらおやつクラブ広報職員の上村と小林がインタビューを行いました!

オンライン上ではありましたが、和やかな雰囲気でインタビューさせていただきました!


プロジェクトに共通する「よりよい本の循環」

小林 ──まずはじめに、バリューブックスさんがどのような企業なのか教えていただけますか?

中村さん

バリューブックスは、古本の買取と販売を主力として、オンライン書店を軸に事業を展開している会社です。

本社は長野県上田市にあり、全国から買取希望の本が毎日約3万冊届きます。通常の買取サービスに加え、「チャリボン」のように本の査定金額をNPOや大学、自治体などへの活動資金として寄付できる仕組みも提供しています。届いた本は一冊ずつ査定し、販売可能なものはネットを中心に再流通させています。また、最近では新刊の販売にも力を入れています。

バリューブックスさんの倉庫。ここで毎日約3万冊もの本が仕分けられています。

小林 ──ありがとうございます。
ここからは少し深く伺いたいのですが、バリューブックスさんは「チャリボン」や「ブックギフト」、「アウトレット書店」、「本だったノート」など、社会課題に取り組むプロジェクトを数多く展開されていますよね。
そのなかで、特に印象に残っているものや「やってよかった」と感じているプロジェクトがあれば教えてください。

中村さん

どれも必要だと考えて始めたプロジェクトなので、ひとつに絞るのは難しいのですが、共通しているのは「よりよい本の循環をつくる」という考えです。
それぞれのプロジェクトには、それぞれに解決したい課題があって、目的があります。自分たちがこの間に入ることで、本の循環を促進したり、再構築したりできれば、それがバリューブックスとしての意義になると考えています。

倉庫に届いた本のうち、ネットなどで再流通できるのはおよそ半分ほどです。需要がなくなっていたり、同じ本が大量に出回って供給過多になっていたりといった理由で、販売につながらないケースが多いんです。
でも、そういった本は内容が変わったわけでも、面白さや価値が失われたわけでもない。「これ、本当にもったいないな」と日々感じていて… 

そうした気づきから生まれたのが、「捨てたくない本プロジェクト」です。
たとえば「本をできるだけ古紙回収にまわさず、“本のまま”次の読者へつなげられないか?」という思いから始めたのが、「ブックギフト」プロジェクトです。学校や保育施設、NPO団体、被災地など、本を必要としている場所へ、”本のまま”無償で届けています。

中村さん

また、長野県上田市には直営の実店舗が2つあります。ひとつは「NABO(ネイボ)」というブックカフェ。もうひとつは「バリューブックス・ラボ」というアウトレット書店です。
「バリューブックス・ラボ」では、再流通が難しい本を50円や100円といった手に取りやすい価格で販売しています。たとえば歯抜けのコミックセットなども取り扱っていて、本を手に取りやすい価格で次の読者へとつなぐ場所になっています。

こうした取り組みのなかで、以前からお付き合いのあった無印良品さんから「一緒に何かできないか」とお声がけをいただいたことがありました。そこから生まれたのが、「古紙になるはずだった本」プロジェクトです。
古紙回収にまわすはずだった本の中から、バリューブックスとMUJI BOOKSにて選書した本を、無印良品の全国約20店舗で100円または300円というお手頃な価格で展開しています。

それでも、救える本はほんの20%ほど。あとの80%は古紙回収にまわさざるを得ないのですが、単に再生紙にするのではなく、「本だった」という背景やストーリーも含めて手渡すことができないか――という問いから生まれたプロダクトが、文庫本を素材として制作した「本だったノート」です。手に取った方が本の循環や出版業界の現状に目を向けるきっかけになれば、と思っています。

本だったノート。バリューブックスさんのECサイトから購入できます。

中村さん

もうひとつの大きな取り組みが、「バリューブックスエコシステム」です。これは、販売利益の約30%を出版社に還元する仕組みです。
出版業界は今、「出版点数が多すぎる」という構造的な課題を抱えています。早い出版サイクルによる供給過多が売れ残りや断裁の要因になっているのではないかと思っています。

一方で、「絶版にしない」という方針のもと、長く読み継がれる本をつくり続けている出版社さんもあります。こうした本は需要が安定していることが多いです。
そうした普遍的な価値を持つ本が増えていけば、僕たちが取り組んでいる「よりよい本の循環」に近づいて行くのではないかと考えています。まだまだ、大きな変化を起こせるわけではありませんが、小さな接点を大切にしながら、利益の還元に取り組んでいます。

小林 ──原点には「本を捨てたくない」という思いがあるのでしょうか?

中村さん

最初から明確なビジョンがあったわけではなく、日々の仕事の中で見えてきた課題に対して、「見て見ぬふりをしない」という姿勢で向き合ってきた結果、自然とプロジェクトが増えていったという感覚に近いです。

経済合理性だけで考えれば、読まれなくなった本は古紙にしてしまう方が簡単ですし、効率的でもあります。でも、それでは「本としての価値」や「誰かに届くはずだった言葉」が失われてしまう。
だからこそ、「本を活かすとはどういうことか」、「本にとってより良い循環とは何か」をずっと考え続けてきました。経済性だけでなく、目の前の課題に正面から向き合いながら取り組んできたことが、今の活動にもつながっていると思います。

小林 ──そうだったんですね。社内にはやはり、本が好きな人が多いのでしょうか?

中村さん

意外かもしれませんが、いわゆる“本の虫”のような人はそれほど多くないんです。というのも、バリューブックスの社員は約300人ほどいるのですが、そのうち200人以上が倉庫業務を中心とした物流部門で働いています。

「本が好きだから」だけでなく、勤務時間の柔軟さや、勤務地が近いからといった理由で入社してくれた方も多いです。働くきっかけや背景はバラバラですが、それもまた多様性として歓迎しています。

小林 ──そうなんですね。僕も今ちょうど就職活動中なのですが、周囲を見ていると、「社会にどう貢献できるか」や「どれだけやりがいを持てるか」を重視している学生が多い印象があります。そうした意味でも、バリューブックスさんの活動には共感する人が多いのではと感じています。

中村さん

ありがとうございます。最近では、小林さんのように本に関する取り組みや、その社会的な背景に共感して、バリューブックスに興味を持ってくださる方も増えていて、それはとても嬉しいことです。

たとえば、デザインが好きな人がデザイン業務に関わったりと、「好き」を活かせる場面も色々あります。自分の関心や強みを軸にしながら、会社としても一緒に成長していけるようなスタイルを大切にしています。

「やりがい」は社内でも大事にしている価値観のひとつです。 たとえば、バックオフィス部門のスタッフでもデザインに興味のある方がいたら、実際にデザイン業務に関わってみる機会をつくったりと、「挑戦してみたい」という気持ちを活かせる場があります。自分の関心や強みを軸にしながら、会社とともに一緒に成長していけるようなスタイルを大切にしています。

バリューブックスエコシステムの仕組み


“人との出会い”から生まれた「チャリボン」ー “スタッフの声”から生まれた「ブックギフト」

小林 ──毎日多くの本が届く一方で、その約半数は値段がつかず古紙回収に回ってしまうと伺いました。
「本が好きだからこそ、本を捨てたくない」という想いが各プロジェクトの根底にあると思いますが、その中でもおてらおやつクラブも参加しているプロジェクトの「チャリボン」はどのようなきっかけで生まれたプロジェクトなのでしょうか?

中村さん

まず「チャリボン」は、古本の買取・販売を行う私たちの事業を、社会に役立つ形で活かせないか。そんな想いを抱えていたときに生まれた“人との出会い”から始まりました。
きっかけは、創業者の中村大樹が、共通の知人を通じて知り合った、若者支援に取り組む認定NPO法人育て上げネットの工藤さんとのつながりです。

工藤さんは当時、就職活動中の若者のためにスーツの寄贈を呼びかけていました。そしてこれには思った以上に反響があり、多くのスーツが集まったそうです。
その経験を通して、「ものの寄付」には大きな可能性があると感じ、創業者の中村大樹に提案してくれたことで、私たちの「本を買い取ってお金に換える」という仕組みを活かし、本の買取金額をNPOへの寄付にすることが可能になる「チャリボン」が生まれたのです。
その結果、本はそのままNPOなどに届けると活用が難しい場合がありますが、お金に換えての寄付となれば、より柔軟に役立てることができるという声が多く寄せられました。

最初は個人的なつながりから始まった小さなプロジェクトでしたが、いまでは大学での寄付活動や、自治体・図書館支援、さらに内閣府の「こどもの未来応援国民運動」の支援ツールのひとつに選ばれるまでに広がっています。

中村さん

一方で「ブックギフト」は、社内の声から生まれたプロジェクトです。2007年の創業当初から続けている活動で、きっかけはスタッフから出た“やりがい”に関する声でした。

創業当時のバリューブックスでは、はじめて「やりがいが見出せない」という理由で辞めていく人がいたんです。
そのことに創業者の中村大樹は大きなショックを受けました。
そこで、「どうすればもっとやりがいを持って働いてもらえるだろう」と考えました。このことが、よりやりがいを実感しやすいプロジェクト「ブックギフト」のヒントになりました。

たとえば、社員の子どもが通う保育園に本を贈ったり、おばあちゃんがいる老人ホームに届けたり。直接「ありがとう」と言ってもらえる機会が生まれることで、日々の作業が誰かの喜びにつながっていると実感できるのではないか?
こうして、今まで古紙回収にまわしていた本を新しい形で活かすプロジェクトがスタートしました。

チャリボンの宣材写真


前編は以上です。お読みいただきありがとうございました。

▼後編はこちら↓↓
【後編】バリューブックスさまにインタビュー 〜よりよい本の循環をつくるために〜