「子どもの貧困率11.0%」の数字の裏で~「制度のはざま」と、待たせない支援の現場から~

このたびの令和8年熊本地震により被災された方々に、心よりお見舞いを申し上げます。みなさまの安全と、一日も早い復旧・復興を心よりお祈り申し上げます。
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▼【ヤマト運輸】熊本県熊本地方を震源とする地震の影響によるお荷物のお届けについて
https://www.yamato-hd.co.jp/important/info_260728_2.html


【目次】
1. ひとり親世帯の「固定化された貧困」と「圧倒的な所得格差」
2. 「所得」の統計には映らない、本当に苦しい家庭の5つの生活実態
 ① 「働けど、なお苦しい」シングルマザーの86.3%が就業するワーキングプアの実態
 ② 母子世帯の21.8%が「貯蓄なし」という圧倒的脆弱性
 ③ 食の質の低下と「欠食」
 ④ 「体験格差」という見えない壁
 ⑤ インフレや学校納付金の滞納
3. 私たちが目撃している、新たな孤立「制度のはざま」
4. 「待たせない支援」が、お母さんたちの孤独を和らげる
5. 「たよってうれしい、たよられてうれしい。」社会を、共につくるために

先日、厚生労働省より「2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況」が公表されました。

▼ 2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa25/dl/14.pdf(厚生労働省)

報道では、子どもの相対的貧困率が前回の11.5%から11.0%へと低下し、「改善傾向にある」と伝えられています。

しかし、全国でお困りのご家庭におすそわけを届け、日々その「生の声」に接している私たちおてらおやつクラブの肌感覚は、この「改善」という言葉とは大きくかけ離れています。統計上の数字がどれだけ小さくなろうとも、現場で暮らす人々の痛みはむしろ深まり、より複雑なものになっているからです。

おてらおやつクラブとして、今回の調査結果をどう受け止め、これから何に取り組んでいくのか。最新の「2025年度活動レポート(インパクトレポート)」の実績や、ご家庭から寄せられる切実な声をもとに、私たちの見解をお伝えします。

▼ 参照:待たせない支援へ。届け方を変えた一年と、新たな課題。|2025年度活動レポート(インパクトレポート)
https://note.com/oteraoyatsu_club/n/n6df48a81de54(おてらおやつクラブ公式note)

1. ひとり親世帯の「固定化された貧困」と「圧倒的な所得格差」

まず、過去の調査から「ひとり親世帯」に関連する数字の推移を振り返ってみましょう。

この推移と詳細な調査結果から、深刻な構造的課題が浮かび上がります。
一つ目は、ひとり親世帯の貧困が完全に「固定化」していることです。子どもの貧困率全体が右肩下がりに改善しているように見える一方で、ひとり親世帯の貧困率は「およそ2世帯に1世帯(45%〜 50%前後)」という異常に高い水準のまま、ほとんど変化していません。

二つ目は、「数字の改善」と「生活実感」の猛烈な乖離です。前回(2021年)から今回にかけて、ひとり親世帯の貧困率は44.5%から44.7%とほぼ横ばいですが、生活意識調査で「苦しい(大変苦しい・やや苦しい)」と答えた母子世帯の割合は75.2%から82.1%へと、約7ポイントも一気に急増しています。

三つ目は、「子育て現役世代」に生じている圧倒的な所得格差です。以下の所得の推移データが、その「埋まらない断絶」をはっきりと可視化しています。

母子世帯の所得は、全子育て世帯の平均の「わずか4割」にとどまり続けています。どれだけ日本の景気が、また世帯所得が全体的に上がろうとも、この「絶望的な格差」の構造は13年間全く縮まっていません。

近年の急激な物価高騰や光熱費の上昇が、家庭の家計を限界まで削り落としていることが、この主観的な数値に強烈に現れています。この点については、認定NPO法人キッズドアの渡辺由美子理事長も詳細な分析を発信されています。

▼ 参照:子どもの貧困率11.0%の「改善」は本当か~相対的貧困率だけでは見えない、子育て世帯と母子世帯の深刻な実態~
https://note.com/yumikowatanabe/n/n3ea5e39b57c4(キッズドア渡辺理事長note)

2. 「所得」の統計には映らない、本当に苦しい家庭の5つの生活実態

なぜ、これほどまでに統計と実感が乖離するのでしょうか。それは、国民生活基礎調査などの「等価可処分所得(手取り収入)」をベースにした指標だけでは、現代の貧困の多層的な困難や、家計の真の脆弱性を観測しきれないからです。

3年前の国民生活基礎調査発表時に私たちが述べた見解の通り、今、子育て家庭のリアルな窮状を測るためには、収入ではなく「支出」や「行動」、「家計の持続性」に紐づくデータに目を向ける必要があります。

▼ 参照:最新の子どもの貧困率発表 おてらおやつクラブの見解は(2023年)
 https://otera-oyatsu.club/2023/08/opinion2023/(おてらおやつクラブ公式サイト)

具体的には、調査内の別の項目や、各団体による観測データが示す以下のような実態に目を向ける必要があります。

① 「働けど、なお苦しい」シングルマザーの86.3%が就業するワーキングプアの実態

「お母さんが働いていないから貧困なのではないか」という誤解が今なお一部にありますが、実態は全く逆です。こども家庭庁による詳細な調査が示す通り、日本のシングルマザーの就業率は86.3%にのぼり、これは世界の先進国(OECD平均 71%)と比較しても驚異的に高い「世界最高水準」の働きぶりです。

▼ 参照:令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果の概要https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/f1dc19f2-79dc-49bf-a774-21607026a21d/9ff012a5/20230725_councils_shingikai_hinkon_hitorioya_6TseCaln_05.pdf(厚生労働省)

▼参照:OECD Family Database LMF1.3: Maternal employment by partnership status
https://webfs.oecd.org/els-com/Family_Database/LMF_1_3_Maternal_employment_by_partnership_status.pdf(経済協力開発機構)

お母さんたちは文字通り身を粉にして働いていますが、その約半数はパート・アルバイトや派遣などの非正規雇用に留まっており、お母さん自身の平均年間就労収入はわずか236万円にすぎません。「どれほど必死に働いても、非正規や就労環境の壁に阻まれ、子どもを十分に養うだけの所得を得られない」という日本の雇用構造の歪みが、子どもの貧困の根底にあります。

② 母子世帯の21.8%が「貯蓄なし」という圧倒的脆弱性

同調査では、母子世帯の21.8%(約5世帯に1世帯)が「貯蓄がない」と回答しています。

過去の数値に比べれば割合としては低下しているものの、依然として社会全体の「2倍」の割合で、貯蓄がない状態で日々綱渡りの生活を送っている家庭が存在します。貯蓄がない家庭にとって、物価高だけでなく、子どもの急な病気による減収やエアコンの故障といった日常の些細な突発トラブルは、即座に「明日食べるお米がない」などといった絶対的な生活破綻へと直結します。

③ 食の質の低下と「欠食」

物価高、そして近年の米価高騰などの影響により、最も削られているのが食費です。支援を求めるひとり親家庭の多くで「親自身が自分の食事回数を減らして子どもに食べさせている」という「親の欠食」が、もはや日常茶飯事となっています。

▼ 参照:「子どもの貧困問題解決」に向けた取り組みと調査レポート
 https://www.savechildren.or.jp/japan/childpoverty/(公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン公式サイト)

④ 「体験格差」という見えない壁

低所得世帯の子どもの約3人に1人が、旅行や習い事、地域のイベントなどの「体験」が年間を通じて一度もありません。おやつを楽しむ時間や、お寺でのちょっとした催しといった「余白」の体験すら、経済的困窮によって奪われています。

▼ 参照:子どもの「体験格差」実態調査 中間報告書(2022年)
 https://cfc.or.jp/wp-content/uploads/2022/12/report_taikenkakusa.pdf(公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン)

⑤ インフレや学校納付金の滞納

所得がわずかに基準を上回っていても、家賃や水道光熱費の急騰に追いつかず、電気やガスが止められそうになり、学校の教材費や給食費などの納付金を滞納せざるを得ない世帯が後を絶ちません。

3. 私たちが目撃している、新たな孤立「制度のはざま」

おてらおやつクラブの最新の「2025年度活動レポート」では、私たちと直接つながり、おすそわけを受け取った生活困窮家庭が20,206世帯(前年比 121.9%)にまで急増したことを報告しました。

この背景に強く影響しているのが、「制度のはざま」に落ちてしまった家庭の増加です。近年の最低賃金引き上げ(賃上げ)などによって、額面上の世帯収入がわずかに上がったご家庭が増えています。これ自体は良いことに見えますが、実はここにも罠があります。

収入がほんの少し上がって「住民税非課税世帯」の基準ラインを数千円でも超えてしまうと、それまで受給できていた「児童扶養手当」が減額または停止されたり、就学援助や医療費免除、自治体の独自給付金といった数々の支援制度の「ハシゴ」が外れてしまうのです。
統計上は「貧困層から脱却した(=数値上の改善)」とみなされる一方で、公的支援を失い、物価高に押し潰されそうになっているご家庭からの悲鳴のようなSOSが、私たちのもとに続々と届いています。

ひとり親手当をぎりぎり所得制限で受給することができず、自分の医療費、食費、交通費と生活に関わるお金を削らなければいけない状況で辛くなってましたが、こうして見放されず、支援対象にしていただけて本当嬉しかったです。
(東京都/50代のお母さん/お子さん2人)

生活保護世帯でも非課税世帯でもなく、各種支援の対象外となることが多かったので、今回の「おすそわけ」が届くと知ったときからとてもうれしかったです。家賃はいつ督促が来るかと気がかりですし、子の体操着は1着しかないので疲れてても洗濯ですし、日々安いものを求めて買い物するので健康的とは言い難い食生活で、自分の本当に求めているものがわからなくなりますし、夏休み旅行なんぞ行けずくつろぎの時間はなかなかもてません。何をするにもお金がかかるので、人とのつながりが疎遠になっていました。
肩の力が柔らかくなるほっとする時間がありました。ありがとうございました。
(岩手県/50代のお母さん/お子さん1人)

4. 「待たせない支援」が、お母さんたちの孤独を和らげる

こうした「制度のはざま」に置かれたご家庭は、所得証明などの厳しい受給条件がある公的支援や、一部の食料支援からはこぼれ落ちてしまいがちです。また、約5世帯に1世帯が「貯蓄なし」という極限状態において、支援の「遅れ」はそのまま家庭の破綻を意味します。

だからこそ、おてらおやつクラブは「公的な証明書の提出などの受給条件を課さない」という基本姿勢を貫いています。目の前で「たすけて」と声を上げてくれたご家庭の存在をそのまま受け止め、仏さまからの「おさがり」を「おすそわけ」として送り届けています。

さらに、私たちは2025年度、もう一つの大きな挑戦をしました。それは「スピード重視の配送システムへの移行」です。
かつては、お申し込みからお届けまでに長い待機時間が発生していましたが、配送管理システムを大幅に見直した結果、初回発送までの平均日数を12日にまで短縮することに成功しました。

簡単なフォームの入力のみで、すぐに食品を届けていただき大変助かりました。
こどもと二人きりで世間から取り残された気持ちになるとこもありますが、すぐに手を差し伸べてくれる人がいる、気にかけてくれている人がいる、と実感し少し気が楽になりました。
最近は成長期と物価高から食費が高くなり、麺が多くなりがちだったので、お米も大変ありがたいです。
(群馬県/40代のお母さん/お子さん1人)

登録してすぐに発送のご連絡をいただき、あっという間に届いた荷物を手にしたとき、その迅速さとお気持ちに感動しました。
箱を開けると、子どもが大好きなフルーツゼリーやお菓子がたくさん入っていて、「すごい!」「嬉しい!」と声を上げながら飛び跳ねる姿がありました。いつもは我慢させることも多い中、思いがけず届いた贈り物に、子どもも私も心が温かくなりました。
子どもと一緒に「大切に食べようね」「感謝だね」と話しながら、お菓子を並べる時間もまた、かけがえのないものでした。お腹だけでなく、心まで満たされる支援に、心から感謝申し上げます。
正直なところ、最初は申し込むことに迷いもありました。でも、こうして届いた温かさに触れ、「頼ってもいいんだ」と思えるようになりました。子どもにも、助け合うことの大切さを伝えていきたいです。
(佐賀県/40代のお母さん/お子さん1人)

おすそわけが迅速に届くことは、単に空腹を満たすだけでなく、頼れる相手がおらず孤立を深めていたお母さんや子どもたちに、「困ったときに、すぐに助けてくれる大人が社会にいるんだ」という圧倒的な安心感を与えます。私たちの評価調査(アウトカム評価)でも、配送スピードの改善に伴い、ご家庭の精神的な安心感や社会的孤立の緩和を示すスコアが明確に向上しました。

5. 「たよってうれしい、たよられてうれしい。」社会を、共につくるために

相対的貧困率が11.0%に「改善」した。その一文で、この問題が解決に向かっていると捉えてはいけません。私たちは、たとえ指標がどれほど改善したとしても、目の前の「1人」が直面している苦しみに徹底して寄り添い、想像力を働かせ、具体的なアクションを起こし続けます。

しかし、「待たせない支援」をスピーディーに行うための全国発送コストや、増え続けるご家庭への対応は、現在のおてらおやつクラブの財務にとって非常に大きな挑戦であり、常に綱渡りの状況です。

「たよってうれしい、たよられてうれしい。」

そんな、おてらおやつクラブが大切にする共助の輪を支えていただければ幸いです。


【参照資料:『国民生活基礎調査』の一覧】
・平成25年 国民生活基礎調査の概況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa13/dl/16.pdf
・平成28年 国民生活基礎調査の概況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa16/dl/16.pdf
・2019年 国民生活基礎調査の概況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa19/dl/14.pdf
・2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa22/dl/14.pdf
・2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa25/dl/14.pdf