2017年5月24日、奈良・東大寺にて開催した「おてらおやつクラブ」活動報告会。全国から「おてらおやつクラブ」参加寺院の僧侶や、ボランティアスタッフが集い、約200名の参加者を迎えて行われました。
前編では、主に、2013年5月24日に大阪北区のマンションで餓死状態で発見された母子をはじめとした、「孤立孤独無縁の末に終えし全てのいのちの追悼」をする法要のようすをレポート。いのりとともに始まった活動報告会のようすをお伝えしました。
後編では、「おてらおやつクラブ」代表の松島靖朗による活動報告、とりわけ3年間の活動を通じて宗教者として、僧侶として感じている手応え、そして今後の活動についてお伝えしてまいります。
◉「見守ってくれる存在」=仏さまの再発見
「貧困」は、「貧乏」と「孤立感」というふたつの要素から成り立っています。貧乏だけなら、法的支援で解決できることもありますが、孤立感がかけあわされることにより、解決の糸口が見えなくなるのが「貧困」なのです。
未婚での出産や離婚を経験したお母さんたちは、家族や友人と疎遠になってしまうことも少なくありません。生活の苦しさ、悩みを誰にも打ち明けられない。ダブルワークやトリプルワークで家計を支えているので、子どもと接する時間も充分にとれない。疲れきって孤立感を深めていくお母さんたちもいます。
▲活動報告会で紹介された、お母さんからのメッセージ
そんななかで、お母さんたちはお寺からの「おすそわけ」を受け取ると、「誰かが見守ってくれていることがありがたい」と感じて、その言葉をお寺に伝えてくださるそうです。
顔も見たこともないどこかのお寺のご住職や奥さん、そしてお寺に集まる人たちが、仏さまからの「おさがり」としてお菓子や食品を送ってくれている。「私たちは忘れられていないんだ」ということが、お母さんたちの孤立感をやわらげるきっかけになっているのではないかと、少しばかりの手応えを感じています。
「見守ってくれるありがたい存在」とは、まさしく「仏さま」そのもの。奇しくも僧侶たちが日々の法話などでお伝えする言葉にも重なり合います。松島は、お母さんたちの言葉のなかに、仏さまからのメッセージを読み取ってもいるようです。
「すべての苦しむ人たちを救いとってくださる仏さまのありがたさ」を、お母さんたちのお手紙から改めて感じさせていただく。そのことが、宗教者として、僧侶として信仰を深めるきっかけになっています。
社会福祉の現場では、課題解決の方法として三つの「助」が挙げられています。自ら問題解決をはかる「自助」、地域の人たちと助け合う「共助」、そして行政や公的機関によって解決をはかる「公助」。ところが、この三つの「助」によるセーフティネットからも、こぼれ落ちてしまう人たちもいます。
とりわけ、貧困問題は顔の見える関係のなかで助け合いに限界があります。なぜなら、当事者にとっては「顔の見える関係のなかで悩みを打ち明けることがつらい」という気持ちがあるからです。松島は、セーフティネットからこぼれ落ちる人たちに「仏助」を提示したいと話しました。
お寺だからこそできることは、誰ひとりもらすことなく救う力を持っておられる仏さまの助けを借りること。私たちは、この活動を通じて「お寺なら何か力になってくれるかも」と思ってもらえるように、お寺の可能性を伝えていきたいとも思っています。
「おてらおやつクラブ」が目指すのは、「仏助」の輪を大きく育てていくこと。全国のお寺が貧困状態にある人たちの孤立を解消する、見守りとつながりのネットワークにしていくことなのです。
◉「おてらおやつクラブ」という名前の本当の意味
「おてらおやつクラブ」という名前は、松島が活動を始めるときに「なんとなくつけた名前」でした。しかし、3年あまりの活動を経て、「おてらおやつクラブ」の名前は、「三宝(仏法僧)」を表すものとして感じられるものへと変わってきたと松島は話しました。
「おてら」はご本尊(仏)のおられる場所。「おやつ」は、仏の教え(法味)。「クラブ」はお寺に集う人々(僧伽、サンガ)を表しているのではないかと考えるようになり、この名前でよかったと思えるようになりました。仏教徒の基本は「仏法僧の三宝に帰依する」ということ。「おてらおやつクラブ」の活動は、三宝を敬うことにつながっていくのだと思うと腑に落ちました。
仏さまに手を合わせた人々の数だけ「おそなえ」があります。「おてらおやつクラブ」の活動のひろがりは、全国のお寺に仏を敬う人々が確かに存在することの証。信仰心ある人々がいるからこそ、仏さまへの「おそなえ」は集まり、「おさがり」を「おすそわけ」にしていくことができるのです。
仏教伝来の地から全国に「おてらおやつクラブ」の活動の輪を広げることによって、我々僧侶は「信仰の心を未来へ相続させる」という役割も果たしてまいります。
お寺が子どもの貧困問題に取り組むことと、仏教を広めていくことは一見つながらないかもしれません。しかし「おてらおやつクラブ」の根幹にあるのは、仏さまの前で手を合わせて「おそなえ」をしてくれる人たちの思いです。その思いを、仏さまの「あらゆる人を救う」という願いに近づけていくこともまた、「おてらおやつクラブ」の大切な役割です。
◉どんな環境に生まれても、笑顔でいられる社会をつくりたい
最後に、松島は「おてらおやつクラブ」のこれからの活動について触れ、2017年秋にNPO法人化を目指していることを発表しました。
これまでは寺院のネットワークとしてやってきましたが、活動の規模が大きくなるにつれて、さまざまな責任が発生することが予想されます。組織としてみなさんからの思いを受けとめるためにも、法人化の手続きをはじめることにしました。「おてらおやつクラブ」がNPO法人として目指したいのは、どんな環境で生まれても笑顔でいられる社会です。
NPO法人になると同時に、活動の幅もさらに広げていく予定です。たとえば、現在一部の寺院ではじめている「おてらこども食堂」を全国に展開。法人職員は、シングルマザーや兼業僧侶を優先的に雇用することも考えています。進学する子どもたちに返還不要の奨学金を給付するために「おてらこども基金」の立ち上げも計画中です。
さらには、ユニークな特技を持つ僧侶による“前方支援”も企画しています。たとえば、「浄土宗の劇団ひとり」こと、紙芝居や人形劇を上演するお坊さん・山添真寛さんのお力添えによる「おてらおやつ劇場」もそのひとつ。子どもたちの元へ出かけ、笑顔を届ける活動にも一歩踏み出す予定だと話し、松島は活動報告を次の言葉で締めくくりました。
「おてらおやつクラブ」は仏法僧の三宝を敬う活動です。私たち僧侶は、仏さまの力、仏法がもつ教えの確かさを信じて、お寺に集う人たちの尊い姿に力をもらい、この活動を全国に広げてまいります。
仏法僧に帰依し、祈り、日々の勤行を行うこと。お釈迦さまの時代からずっと、変わらない僧侶のいとなみをていねいに続けていくことが、「おてらおやつクラブ」の根っこを支えています。活動報告会を通して、松島をはじめとしたスタッフは、そのシンプルな事実を改めて深く受けとめることができました。
あらためまして、ご参加いただいたみなさまに、この場を借りてお礼を申し上げたいと思います。ありがとうございました。そして、これからもどうぞよろしくお願いいたします。
(編集協力:杉本恭子 写真:藤井崇文・栗本恵里)