おてらおやつクラブの発行するフリーマガジン『てばなす』編集人の松野尾浩慈です。
おてらおやつクラブの活動は、全国各地で活動している団体の皆さんとそれを後方から支えるお寺があってこそ成り立ちます。団体とお寺の関係性が深まるなかで、少しずつですが地域での見守りが生まれてきています。
フリーマガジン『てばなす』紙面でお伝えしている全国各地の動きを、おてらおやつクラブWebサイトでも「地域だより」としてお伝えしていきます。
第1回目は2019年発行の『てばなす3号』掲載の香川県 浄願寺さまのレポートです。
超世山 浄願寺(ちょうせいざん・じょうがんじ)(香川県高松市)
「学ぶ喜びは、生きる喜び」 浄願寺副住職であり上野数学教室の教師である上野忠昭(うえの・ちゅうしょう)さんはそれを日々実感しています。おてらおやつクラブを通して教室へ通うようになった学生もいます。上野さんに教育と地域についてお話を伺いました。
数学教室のスタート
高松駅近くにある浄願寺。副住職の上野忠昭さん(63歳)はほぼ毎日授業をしている。
月曜から土曜は19時から数学教室で授業があるので、会議や研修で京都などへ出ていても間に合うように帰郷する。教室が休みの日曜も一人の学生を本堂で教えている。
それだけでも大変なのに、法務に加えて社会福祉協議会、民生児童委員、教誨師など役職も多い。
さらに近所のこども食堂の代表も務め、慌ただしい日々を過ごす。単なるボランティア精神でやれるものではないが、「僧侶でなかったから、こんないろいろな関わりは持てなかった」と穏やかに笑う。
そもそもの始まりは30年続く「上野数学教室」。
大学時代に塾講師のアルバイトをしていたこともあり、仕事を辞めてお寺に戻る際には既に地元の5人の子どもたちが「教えてほしい」と待っていたという。
最初はお寺の中で教えていたがお通夜のたびに休まなければならないので、近くのアパートを教室に使用。「他の教科の質問はさせません。責任とれないから」と笑う上野さん。今ではLINEで生徒からの質問に答えたり、とことん面倒見が良い。そんな上野さんのもとに子どもたちの悩みや地域の課題が集まってくるのは必然だった。
おてらおやつクラブに参加しよう!
2016年頃から地元の仏教会「高松市仏教会」にも関わるが、いざ参加してみると当時の高松市仏教会は解散も検討されるほど活動が停滞していた。
そこで上野さんは見聞きしていた「おてらおやつクラブ」への参加を提案。まずは高松で説明会を開くことになった。
当時は四国の賛同寺院も少なく、支援先となる団体もゼロという状況で、四国のお寺からは本州へ発送していた。
説明会には地元の子育て支援や学習支援などの団体が参加し、早速に支援先として登録。支援者どうしがつながる場にもなった。
上野さんも地域のキーパーソンたちと出会い、これまで培ってきたお寺や数学教室のネットワークと一気につながり、ご縁の不思議さに驚いたという。上野さんのもとにはますます相談が舞い込むようになったが、「お寺とは本来そういうところ。みんなに頼られてこそ僧侶ではないか」と冷静に受け止めている。
しうんまんまる広場を開催
間もなく説明会で知り合ったスクールソーシャルワーカーの女性から「こども食堂をしたい」と相談があった。場所や資金などは上野さんが関係者を引き合わせることによってスムーズに開設。名前は貧困対策のイメージが強い「こども食堂」を避けて「しうんまんまる広場」とし、毎月2回開催している。
しかし開催してみると、生活に問題を抱えた子どもたちが集まった。多くのこども食堂は貧困対策というより、みんなの居場所として誰でも気軽に参加しているのが実態だが、「ここはハードケース。食事をしてもなかなかありがとうと言えない子もいる。ネグレクトなど厳しい生活状況の子がいます」
さまざまな課題があるが、子どもたち自身でルールを決めさせて秩序を保っている。「自分で決めたルールなら子どもは守ります。そうする中で、やがて子どもたちがこの広場を誰が用意しているか、お米はどこからくるかなどに気づいていく。子ども自身が気づくことが大事。無理やり教えても反発されます」。教育者としての上野さんの経験が活きている。
お寺に高校生がやってきた
「助けて」と連絡があった家庭へおてらおやつクラブ事務局から直接おすそわけをお送りする「直接支援」のお母さんから、次のような相談があった。「子どもが高校に行き始めてはや半年になりました。数学が難しいらしく家庭教師の問い合わせをしてみましたが、あまりの高額で断念しました。近くに塾がないので困っています」
このお母さんが高松市の方だったので、事務局から上野さんに相談。するとトントン拍子に話は進み、上野さんが浄願寺の本堂で教えることに。毎週日曜日に1対1の授業、しかも夜の本堂という独特の雰囲気だが、本人は物怖じせず喜んでやってくる。
有り難いのは、上野さんの授業料が地元の基金で支払われていることだ。薬局経営者が子どもたちのために設立した「砂原児童基金」を受給できるようになった。上野さんは無償でいいと考えていたが、必要とする人と地域の支援をつなげていくことで、授業を受ける側も安心でき、上野さんも収入となる。誰かが無理をする支援ではなく、持続可能な支援の枠組みとなり、他の学生にも可能性が広がった。
お布施を頂くのに足る存在に
上野さんは多忙な毎日を嘆くことなく、「一つひとつ、すべてが修行」と言い切る。その姿は愚直な修行僧そのもの。「僧侶は修行してお布施を頂く存在です。布施されるに値する人物であること、そのためには修行が必要。子どもたちに教育する立場ならなおさら、正しい生活規範を守っていかなければなりません」
「おてらおやつクラブは『おてら』という名前がついているのが重要だと思います。お寺は相談したらなんとかしてくれると思われる存在であるべきでしょう。お寺としても僧侶としても、お布施を頂くのに見合う活動を続けていきます」という言葉に力がこもった。
(てばなす第3号 掲載記事より)