『てばなす』第9号スペシャルインタビュー:四国のとある登録寺院 おてらのばぁばさん

*こちらの記事は2025年6月14日発行の「『てばなす』第9号」に掲載されているスペシャルインタビューを再編集したロング版インタビューです。

インタビューの他にもさまざまなコンテンツが掲載された読み応えたっぷりの冊子になっていますので、ぜひ『てばなす』第9号もご覧ください。

『てばなす』第9号はこちらからご覧いただけます
https://otera-oyatsu.club/2025/06/tebanasu9/


想像することは大事なこと。つながりになり、きっかけになります。

おてらおやつクラブ事務局に、おすそわけを受け取ったお母さんからメッセージが届きました。
そこには「おてらのばぁば」さんへの感謝の気持ちが綴られていました。

沢山のおすそわけをありがとうございます。
私の所へは「おてらのばぁば」さんが荷物を詰めてくださったようで、たくさんのおすそ分けと共に手書きの心のこもったお手紙が入っておりました。おすそ分けもとても嬉しかったのですが、手書きのお手紙がとても心に染みて、つい涙してしまいました。どこの誰かもわからないのに、私たち親子を思って下さる方がいる。とても心強く、嬉しく感じました。
丁寧な箱詰めやお手紙から、とても暖かい真心を感じました。
子どもと一緒に、ワクワクしながら開封させていただきました。子どもも普段なかなか食べられないおやつに、とても喜んでおります。本当にありがとうございます 。
どうか私たち親子の感謝のきもちも、おてらおやつクラブさん、おてらのばぁばさんに届きますように。
(愛媛県/30代のお母さん/お子さん2人)

おてらおやつクラブの登録寺院としてひとり親家庭に匿名でおすそわけを送るおてらのばぁばさん。
おすそわけを受け取ったご家庭の感謝の声は事務局にも多数届き、事務局員の間でも噂になっているほどでした。一体どのような方で、どんな手紙を書いておられるのか。今回、お話を伺うために四国へ向かいました。


貧困は自己責任ではない

 私は昭和25年、終戦後に四国のお寺で生まれました。お寺といえば生活に困らないイメージがあるかもしれませんが、私のところのような街中にあるお寺は、耕す田畑もなくお布施は農作物でという時代でしたので、貧しい子ども時代を過ごしました。多くの子どもが買ってもらえているのに自分は買ってもらえないという経験をしていたから、傲慢な言い方かもしれませんが、生活に困窮しているご家庭の大変さが想像できるのかもしれません。

 門徒さん向けに発行している新聞でおてらおやつクラブのことを伝えたら、農家の門徒さんから活動に使ってほしいとお米や苺を届けてくださるようになりました。いろんな料理に使いやすいようにと、ケチャップやマヨネーズを毎回持ってきてくださる方もいます。こうして少しずつおてらおやつクラブのために協力してくださる方が増えてきているんです。

 「おすそわけ」は娘や孫に送るつもりで、娘たちと同年代、30~40代のひとり親の人が子どもを抱えて生活していると想像しています。
 お米はもちろん、スパゲッティも若い人は好きかなと思って。ホットケーキミックスにはシロップも入れてお子さんと一緒に作ってもらえたら嬉しいなとか。あとは門徒さんなどからいただいたものを入れています。

 そして必ず見知らぬ方へ短い手紙を書くことにしています。用紙には私の心に響いたことば「晴れの日は枝が伸びる。雨の日は根が伸びる。」をコピーして使っています。
 手紙には自分が若かった時のこと、後悔していること、ちょっと踏み入れて自分のことなどをさらけ出して書きます。私にも辛くて眠れないときや泣き明かしたこともあったこと。今になって振り返ったら、あのときがあったから今日の私があるんだなって思えるようになったことなど。

 「あなたが今大変な生活をしていることは、なにも無駄になっていませんよ。あなたの糧になっていますよ。応援していますよ。」

 自分の人生と重ねてこんな手紙を書いてます。どこかで箱を開けた親子が前を向いて元気になってくれると嬉しいなと思っているんです。

 子育て中には、疲れて子どもが「早く寝ないかな」と思うこともありました。今考えると子育ての時間は短いのに、なんであんなにイライラしてたんだろうって……。
 自分の子育ての反省から、今子育て中のお母さんには子どもと向き合う時間を作ってほしい。せめて30分だけでも向き合ってほしいと思い、絵本を入れることもあります。私の娘たちも寝る前の絵本を心待ちにしていました。一冊の絵本が親子の豊かな時間を育むきっかけになればいいなと思いますし、なにより絵本はその本の世界を飛び出して空想したり夢見たり、どんどん心が豊かになっていくと信じているからです。

 おてらおやつクラブにつながるお母さんお父さんは、ご両親や親戚とのつながりが閉ざされている方も多いと聞くので、「おすそわけ」をきっかけに地域とつながってほしいと願って支援団体のパンフレットも入れています。どこかに所属して、愚痴を言い合うだけでも救われると思うんです。

 貧困を自己責任だと決めつける人もいます。私も何も知らないときはそう思っていました。でも貧困問題に取り組んでいる方の講演を聞いて、貧困は世の中の仕組みから生み出されたのだということを知りました。社会全体で支える必要があると思います。

想いは箱に収まり切らない

 私は周囲の子どもたちから下の名前に「ばぁば」を付けて呼ばれるんです。そこから手紙を書くときには「おてらのばぁば」と名乗っています。受け取るお母さんたちには自分のお母さんのように思ってほしくて。

 おてらおやつクラブの匿名で送る仕組みは距離感がちょうど良いです。届く先の相手がわかってしまうと思い入れが強くなりすぎて、私の想いは小さな箱に収まりきらない気がするから。相手のことをもっと知りたいという気持ちもあるけど、匿名だから冷静に関われていいと思っています。

 ジョン・レノンの代表作に『イマジン』という曲がありますよね。「想像してみましょう(Imagine)」って歌詞があります。想像してみることってすごく大事なこと。想像がつながりになって、きっかけになります。ジョン・レノンやティク・ナット・ハンも想像することの大切さを教えてくれています。

学生時代に受け取った「門徒さんからの荷物」

 数年前に境内の納屋を建て直したんです。そのとき荷物を整理していると、ボロボロのダンボールが出てきました。60年ちかく前、私が京都の学生時代のダンボールでした。差出人を見ると、門徒さんからのものでした。四国から京都へ行った私のことを思って、送ってくれたものです。

 あの時代は宅配便なんてなかったので、荷物は「チッキ(*1)」で四国から京都の駅まで貨物列車で運ばれて、京都の駅に到着したら、「赤帽さん(*2)」が家まで届けてくれたんです。たしか、このおばあさんは字も書けなかったはずで、代筆してもらって荷物を届けてくれていたんだと思います。

 でも当時の私はあまり喜んでいませんでした。当時、四国から京都の大学へ行く私のことを、門徒さんたちが見送りに集まってくれていましたが、大勢の方から見送られることプレッシャーに感じていたのです。

 自分の孫でもない、お寺の跡取り娘を思う気持ちにあらためて感謝の想いが溢れました。今になって感謝を伝えたくなったのですが、直接伝えるすべはもうありません。おばあさんの息子さんがまだ存命なので、息子さんにこのダンボールの話と感謝の想いを伝えました。荷物を送るというのは単に品物を送ることではない。相手を思いやる気持ちも一緒に送るんだということを亡き方から教えていただいた出来事でした。

 寺に身を置く者として思うことは、寺は社会の問題と無縁ではないということです。市の仏教会のように宗派を超えておてらおやつクラブに取り組んでいることはすばらしいと思いますし、全国の仏教会がそうであってほしいです。

 そして貧困問題にかぎらず、小さな命あるもの(殺処分など)のことや環境問題等の社会問題にも目を向けられる僧伽(サンガ)でありたいと願うものです。私もその一人でありたいと思っています。

(*1)チッキ・・・かつて国鉄やJRが提供していた、旅客列車に乗せて手荷物を運ぶサービス。鉄道で荷物を送ることを意味します。
(*2)赤帽さん・・・駅から旅客の荷物を運ぶ職業。赤い帽子をかぶるところからそのように呼ばれていました。


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