賛同寺院の想いを聞く 〜高松市仏教会・鎌田拓子さん おてらおやつクラブを通して見えた支援の現実と寺院の使命〜

全国の家庭や団体へ支援を行うおてらおやつクラブの活動には、各地の活動拠点となる賛同寺院さまは欠かすことのできない大切な存在です。

賛同寺院の皆さまは、どんなきっかけで活動に参加してくれたのか。どのような考えを持って活動に取り組まれているのか。活動を通じて何を感じ、どう変化したのか。日頃は表にでることの少ない「お寺の想い」をインタビューし、より多くの方にお届けしていきます。

第4弾は、香川県 高松市仏教会 鎌田拓子(かまだ・ひろこ)さんにお話を伺いました。

▼第1弾の寺院インタビュー 壽徳寺 松村妙仁さんの記事
https://otera-oyatsu.club/2024/01/temple-interview-jutokuji/

▼第2弾の寺院インタビュー 宝林寺 羽田慶仁さんの記事
https://otera-oyatsu.club/2024/03/temple-interview-hourinji/

▼第3弾の寺院インタビュー 實光院 天納玄雄さんの記事
https://otera-oyatsu.club/2024/06/temple-interviewjikkoin/


—おてらおやつクラブとはどのようなきっかけで出逢われたのでしょうか。

当初はひとり親家庭の現状について、特に関心を持っていませんでした。話題になることも少なく、知識としてもほとんどなかったんです。
しかし、私が参加している高松市仏教会の活動に行き詰まりを感じていた頃、偶然、浄土宗 淨願寺の上野さんからおてらおやつクラブの取り組みについて教えていただきました。その話を聞いていくうちに、仏教会や寺院のあり方を見直す一つの手段として、この活動に参加してみようという気持ちが芽生えたのが始まりでした。

活動に参加してからは、実際に利用者のデータやいろいろな声を聞く機会が増えました。なかでも一番驚いたのは、ひとり親家庭の9割が母子家庭だという事実でした。
この現実に触れたとき、以前から感じていた「女性の生きづらさ」という課題と重なり、気づけばおてらおやつクラブの活動に、さらに深く関わるようになっていったんだと思います。

仏教会・・・地域のお寺が宗派を超えて祭りや慰霊祭などの活動をする団体で、全国各地で組織されています。

—そんなきっかけだったんですね。おてらおやつクラブに関わるようになってから、変わったことはありますか?

以前は、門徒(お寺の信者)さんも「お供え物をお寺に渡したら、それで終わり」という感覚で、その行き先を気にされることはほとんどありませんでした。お供え物がその後どうなるのかは、謎のままだったのかもしれません。
ただ、おてらおやつクラブの活動に参加するようになってからは、お供え物の行き先がはっきりし、門徒さんにも「これは後で、いつもの支援団体にお願いしますね」と声をかけてもらえるようになりました。「供物を捧げる」ことが支援に直結しているということが、皆さんにも理解してもらえるようになってきたんです。その結果、寺院への信頼も高まっているように感じています

毎月1回実施している合同発送会の様子

—活動の中で困ったことや苦労したことはありますか?

市仏教会として活動を始めたのは、確か2016年の7月頃だったと思います。まだコロナ禍の前ですね。その頃は「寺院離れ」が問題視されていて、月に一度の活動に参加するお寺も少なかったんです。それでも、おてらおやつクラブに支援を求めるご家庭もそれほど多くなかったので、なんとか対応できていました。
ところが、2020年4月にロックダウンが発令されてから、経済に大きな打撃があり、寺院だけでなく、それを支えている門徒さんや檀家さんにも影響が出てしまいました。毎月のお参りや法事が中止・縮小され、お供え物も一気に減ってしまいました。その一方で、おてらおやつクラブには「助けて」という声が次々と増え、支援が追いつかなくなってきたことに、正直焦りを感じました。

—特に四国エリアでは賛同寺院の数が多くないため、一部の寺院さんに頼らざるを得ない状況です。持続的な活動を続けるためには、賛同してくださる寺院さんがもっと増えてくれると嬉しいなと思います。
これまでの活動のなかで、特に印象的だったことはありますか?

これは私個人の話なんですが、実は「おてらおやつクラブ」の活動に関わっていることを、家族はあまり理解していなかったんです。「何をやっているのかよくわからない」と、どちらかというと冷ややかに見られていたと思います。
うちは保育園と幼稚園を経営しているんですけど、在園児のご家庭を見ても、子どもの貧困などの問題が表に出てくることはありませんでしたし、「子どもたちのことは自分たちが一番よく知っている」という自負があったんですよね。だから、その陰に隠れているご家庭や親御さんたちに気づくことはできませんでした。私が以前、ひとり親家庭の半分近くが貧困状況にあることを知らなかったのと同じように、家族もその現実を知らなかったんだと思います。

でも、全国巡回展が高松で行われたときに、家族にも声をかけて一緒に展示を見てもらったんです。姉は「声」のパネルの前で泣いていましたし、父母も講演を聞いて胸を痛めている様子でした。それがきっかけで、家族の考え方が一気に変わったんです。「幼稚園で余ったサンプルがあったら持っていくように」と声をかけてくれるようになったり、今までお供えをしたことがなかった姉がお供えをするようになったりして(笑)。
この経験から、理解を求めるよりも、まずは「知らせること」が大事なんだなと気づかされました。知らない人には、すでに知っている人が伝えていくことが本当に大切なんですよね。

2023年1月、全国巡回展 高松会場で掲示した「声」のパネル

—さまざまな困難を乗り越えての「今」があるんですね。そんな経験を経た鎌田さんがおてらおやつクラブの活動に取り組むなかで大切にしていることはありますか?

常に敬意を払うことを大切にしていますし、これからも大切にしていきたいと思っています。
おてらおやつクラブの活動を知って、「どうぞお使いください」とお供えくださる門徒さん、一緒に活動してくださる寺院の皆さん、支援団体の方々、そしてこの活動を利用される方々に対して、心の中でしか表現できないかもしれませんが、常に敬意をもって関わることが大切だと感じています。

—鎌田さんから、おてらおやつクラブに期待されることはありますか?

銚子市でシングルマザーが貧しさのあまり娘を殺してしまった事件や、長野県で家賃が払えずに母子心中が起きた事件のニュースを見て、「相談できる相手がいなかった」という言葉が心に残りました。生活保護や求職者支援制度、住居確保給付金など、生活に困っている人たちが利用できる制度はたくさんあるはずですが、役所から十分に情報を教えてもらえないことも多いんですよね。
もちろん、子どもの支援団体に向けたお寺からの後方支援」を長く続けていくための持久力をつけることも大切な課題だと思いますが、近隣の支援団体やセーフティネットにつなげる窓口や仕組みがもっと整備されればいいなと感じています。

ーおてらおやつクラブとしても、賛同寺院と支援団体を結びつける橋渡しを目指して活動していますが、理想としてはおてらおやつクラブだけでなく、地域のなかにさまざまな頼り先があることが重要だと考えています。
最後に、まだ活動に参加していないお寺さんに伝えたいことを教えてください。

おてらおやつクラブに関わって約7年半になりますが、正直なところ、最近までずっと葛藤を抱えていました。
そんななか、最近になって親鸞聖人が詠まれたご和讃「願作仏心(がんさぶっしん)すなわちこれ度衆生心(どしゅじょうしん)なり」という言葉に改めて触れる機会があり、その言葉が心にストンと落ちたんです。「仏にならせていただきたい」と願う信心は、衆生を救おうとする心に繋がると言われています。
この考えに立つと、おてらおやつクラブは、寺院が社会に参画できる形を作り、衆生を救おうとする心を促す場を提供している取り組みだと感じるようになりました。


困りごとを抱えるご家庭からの「たすけて」の声に応えていくためには、より多くのお寺さまのご協力が不可欠です。全国のひとり親家庭に「おすそわけ」を届けるため、引き続きお寺さまのご参加をお待ちしております。

▼ おすそわけの発送以外で関われることはこちらをご覧ください。
https://otera-oyatsu.club/temple-regist-2000/#other