全国の家庭や団体へ支援を行うおてらおやつクラブの活動には、各地の活動拠点となる賛同寺院さまは欠かすことのできない大切な存在です。
賛同寺院の皆さまは、どんなきっかけで活動に参加してくれたのか。どのような考えを持って活動に取り組まれているのか。活動を通じて何を感じ、どう変化したのか。日頃は表にでることの少ない「お寺の想い」をインタビューし、より多くの方にお届けしていきます。
第2弾は、東京都 宝林寺(ほうりんじ) 羽田慶仁(はた・けいと)さんにお話を伺いました。
▼第1弾の寺院インタビュー 壽徳寺 松村妙仁さんの記事
https://otera-oyatsu.club/2024/01/temple-interview-jutokuji/
—おてらおやつクラブに協力しようと思ったきっかけはなんですか?
2019年、ちょうど大学を卒業した年からおてらおやつクラブに関わっています。大学の仏教関係者のOB会があり、そこでおてらおやつクラブの理事の方にお会いしました。おすそわけ活動についてお話を聞き、「面白い取り組みだな。自分たちにもできる活動だ。」と思ったんです。誰でも気軽に参加できるのに、それが社会の課題解決につながるという仕組みにひかれて賛同しました。
—羽田さんが活動に関わってくださって5年も経ちますね。本当にありがたい限りです。おてらおやつクラブに参加する5年前と比べて羽田さんご自身が変わったことはありますか?
私自身、以前はお寺のおそなえものが活用しきれず「もったいない」という状態になっていることにすら目が向かず、気付けていなかったんです。おてらおやつクラブの活動に参加したころ、ちょうど当時の住職(祖父)が亡くなったこともあり、お寺を切り盛りしていくことを「自分事」としてとらえないといけないと感じ始めていました。それに加えて、おてらおやつクラブの活動を始めることで、「自分も何かしたい」という意識がより強くなりました。
お寺に長男として生まれた身として、「いつかお寺を運営していく責任を担うことになるだろう」とはどこかで思ってはいましたが、自分の将来について明確なビジョンがあったわけではありません。はじめのうちは、どこか義務感のようなものがあったように思います。友人たちがが当たり前に就職していくことに少しうらやましく感じていた時もありました。
でも前住職が亡くなり、おてらおやつクラブへの参加で「おそなえ」に意識も向くようになり、お寺を運営することが「義務」ではなくなり、主体性をもってお寺と関わることができるようになりました。
—色んな事が重なり羽田さんの意識を変えるきっかけとなったんですね。5年前と比べて地域の方との関わりで変わったことはありますか?
地域の方々も「良い活動ですね」と好意的にとらえてくださる方が多く、おそなえとしてお野菜などを持って来てくださいます。近所の方がお寺に出入りされることも少なかったので、お寺とつながってもらうきっかけとなったことはとても嬉しいです。お寺の存在を知っていただけるだけでも本当にありがたいので。
今は個人や企業からのご寄贈も受け入れていますので、月1~2回必ずご寄贈が届くようになったのも大きな変化です。
—ご寄贈を全国の家庭・団体に広く届けるためには全国のお寺さまに受け入れていただく必要があるので、宝林寺さんには本当に助けていただいています。でも保管スペースの問題などでお困りではないですか?
多少自宅がご寄贈の段ボールでいっぱいになることもありますが(笑)、問題ないです! むしろご寄贈を届けてくださることに感謝です。引き続きご寄贈でのご支援をよろしくお願いします。
—そう言っていただけるとありがたいです! 今後もよろしくお願いします。宝林寺さんでは「寺子屋宝珠庵」という学習支援活動も実施されていますよね?
経済的な理由などで塾に通えない小中学生10名ほどを対象にした学習支援活動「寺子屋宝珠庵(てらこやほうじゅあん)」を2022年よりスタートしています。お寺のはなれを無償でお貸ししています。学習支援のボランティア講師をされていたご門徒さんから相談されたことが活動開始のきっかけです。運営は認定NPO法人「キッズドア」が行っており、おてらおやつクラブのおすそわけもお菓子の時間に子どもたちに食べてもらっています。
—5年間の活動の中でたくさんの方との出会いが生まれたんですね。とくに印象的だった出来事はありますか?
2023年、「お金がなく電気が止まってしまった」というご家庭がいらっしゃって、ちょうど宝林寺の近くのご家庭だということもあり、おてらおやつクラブ事務局から「おすそわけを家庭に送ってほしい」と要請がありました。
活動を続けてきて、改めて「近くにも困りごとを抱えるご家庭がいらっしゃるんだ」ということに気付かされました。今後もできることを続けていきたいと思ったと同時に、困っている方に手を差し伸べられる自分の環境のありがたさに感謝しました。ただ生きているだけでは気付けないことを改めて学ばせていただきました。
—日本では「見えない貧困」が多いと言われているので、貧困状態にある家庭の存在を実感しにくいと思います。近くの家庭におすそわけを送ったことで、困りごとを抱える家庭がすぐそばにいるのだと実感してもらえて嬉しいです。今後も羽田さんには長く活動に関わっていただきたいと思っていますが、引き続き活動で大切にしていきたいことはありますか?
無理なく参加することですね。おすそわけの梱包、ボランティア対応など、宝林寺では家族ぐるみでおてらおやつクラブの活動に参加しています。ですので、家族皆が無理なく活動を続けられることを大切にしていきたいですね。
また、お寺の慣習の断絶を防ぐためにも色々なつながりを作り、おてらおやつクラブの活動を通して新しい形のお寺の役割を見つけ出していきたいです。
—無理なく持続できることが重要ですよね。お寺の習慣も持続が難しくなってきているのですか?
お墓じまいや法要の簡素化で「お寺離れ」と呼ばれる状況は確かにあるように感じています。お坊さんたちも「何かしたい」と思っていても具体的に動ける方も少ないことも否めません。しかし、お寺には弔いごと以外にも価値あるものがたくさんあります。絶やすことがもったいない文化や習慣もたくさんあり、私はいち僧侶として仏教にとても魅力を感じているんです。今後も自分自身が仏教の魅力をいっそう伝え、お寺の世界を元気にしていきたいです。
今、私は教員として中高生に「宗教教育学」を教えているんですよ。信仰ではなく、仏教の魅力を生徒にも伝えていきたいですね。それによって人間の根本の課題に向き合うことができますし、もしかしたら誰かの生きるヒントになるかもしれません。
—羽田さん、教鞭をとっておられるんですね。生徒の方にも伝えたい「人間の根本の課題」とは何ですか?
例えば、煩悩であったり、生老病死であったり、お釈迦さまが悟りの前に抱えていた悩み・苦しみの部分ですね。そこの悩みの発生、つまり「なぜその課題が出てくるのか?」という背景や経緯に注目したいと思っています。なので、僧侶として社会課題については向き合い続けていきたいです。
—なるほど、社会課題に向き合いたいという思いは、おてらおやつクラブの活動に積極的に参加されていることともつながってきますね。羽田さんのおてらおやつクラブの活動以外の部分やお人柄が伺えてよかったです。では最後に、まだおてらおやつクラブに参加されていないお寺さまへメッセージをお願いします。
おてらおやつクラブは、ただおそなえを送る活動ではありません。活動を通して自分の気付きを得たり、いろいろな方との出会いをもたらしたりするきっかけになるかもしれません。未登録のお寺さまはぜひ一歩踏み出して、その貴重な気付きや出会いを感じてもらいたいです。
困りごとを抱えるご家庭からの「たすけて」の声に応えていくためには、より多くのお寺さまのご協力が不可欠です。全国のひとり親家庭に「おすそわけ」を届けるため、引き続きお寺さまのご参加をお待ちしております。
▼ おすそわけの発送以外で関われることはこちらをご覧ください。
https://otera-oyatsu.club/temple-regist-2000/#other