2017年5月24日、「おてらおやつクラブ」は3年間の活動を振り返り、今後の展望についてお伝えする活動報告会を奈良・東大寺にて開催しました。
5月24日は、「おてらおやつクラブ」立ち上げのきっかけにもなった、大阪・北区のマンションで母子が餓死状態となり発見された日。そして、奈良は日本仏教伝来の地であるとともに、「おてらおやつクラブ」はじまりの地です。
この日、この地において、約200人の参加者を迎えて行った活動報告会のようすを、一部抜粋にてレポート。前後編に分けてお伝えいたします。
◉はじまりは祈りとともに
活動報告会は、東大寺の別当さまのご挨拶の後、「おてらおやつクラブ」参加僧侶たちによる法要からはじまりました。
この法要は「孤立孤独無縁の末に終えし全てのいのちの追悼」のためのもの。導師(法要の中心となる僧侶)が読み上げた表白(ひょうびゃく、法要の趣旨や願いをご本尊に表明するもの)には、2013年5月24日に餓死状態で発見された大阪北区の母子を供養する言葉もありました。
「おてらおやつクラブ」代表・松島靖朗(奈良・安養寺住職)が行動を起こしたのは、まさにこの母子の事件を知ったときでした。“飽食の国”とも言われる日本で、食べることもままならずに息を引き取る親子がいるという事実に胸をえぐられ、「ひとり親家庭のためにお寺にできることは何だろう?」と考えはじめたのです。
「もうこれ以上、お母さんや子どもたちを餓死させたくはない」。
松島の願いを種に生まれた「おてらおやつクラブ」の活動は、3年あまりを経て「おてらおやつクラブ」の参加寺院は667か寺に。全国47都道府県のさまざまな宗派の寺院からの協力が得られるようになりました。また、「おてらおやつクラブ」と連携して、ひとり親家庭へと繋いでくれる支援団体は244団体にもなり、お寺からの「おすそわけ」は、約7,000人の子どもたちに届けられるようになっています。(数字は2017年5月時点のもの)
◉食べ物の「いのち」を断ち切らない
法要と法話による祈りの時間のあとは、「おてらおやつクラブ」を立ち上げ当初から見守ってくださっていた、食品ロス問題専門家の井出留美さんの講演。日本における食品ロスの状況について共有していただきました。井出さんは、昨年に『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』を上梓したばかり。「食べ物はいのち」という視点を提示し、「まだ生きられる食べ物の命を断ち切ることが心苦しい」とお話してくださいました。
「おてらおやつクラブ」は、仏さまに「おそなえ」される食べ物を「おさがり」としていただき、支援団体を通じて全国の母子家庭のもとへ「おすそわけ」する活動。井出さんの言葉を借りると「食べ物の命を生かしきる」という側面もあります。
お寺のご本尊には、お参りされる方たちが、お菓子や果物などを「おそなえ」されます。「おそなえ」はやがて「おさがり」として仏前から下げられて、お寺の家族やお参りに来られる方たちに「おすそわけ」をして分け合います。しかし、お彼岸やお盆の季節は「おそなえ」が多く、「おすそわけ」しきれないこともあります。
お寺には、食べきれないほどのお菓子や果物がある一方で、一日一食がやっとでお菓子や果物を口にできない家庭の子どもたちもいます。「おてらおやつクラブ」は、「お寺の『ある』と社会の『ない』をつなげて両方を解決する」というアイデアから始まりました。
しかし、「おてらおやつクラブ」が届けたいのは、単なる食べ物だけではありません。
代表・松島の活動報告から、「おてらおやつクラブ」が届けたいと願っているものについて詳しくお伝えしていきたいと思います。
◉仏教を説く僧侶として「苦しみ」を共にする
未婚・離婚件数が増加している日本では、母子のみのひとり親家庭の数は約82万世帯(「ひとり親家庭等の現状について」平成27年厚生労働省調べ)にも上ります。ひとり親家庭の増加は、子どもの貧困状態に直結。また厚生労働省による「平成28年国民生活基礎調査」によると、18歳未満の子どもの貧困率は13.9%(2015年時点)。日本の子どもの7人に1人が貧困状態ということになります。
仏教は、人がこの世に生きる苦しみから逃れるための教え。松島は、僧侶として「苦しみが何であるのかを知らねばならない」と話し、その体験を「共苦する体験」と名付けました。
「おてらおやつクラブ」を通して、困窮しているご家庭とのご縁に出遇います。さまざまなご縁を通して、苦しむ人たちと共に考え、苦しみを分かち合い、悩み続ける存在でありたいですし、我々僧侶はこのような体験をする必要があると考えています。
そして、「おてらおやつクラブ」の活動を通じて、お寺の果たすべき役割は「後方支援」であることが明らかになってきたと言います。
お寺の役割は、すでに存在しているひとり親家庭と支援団体のつながりを支えること。支援関係にある両者の関係を、お寺が「おすそわけ」で後押しして力添えすることだと見えてきたのです。
「おてらおやつクラブ」では、「おそなえ」を「おさがり」としていただき、ダンボールに詰めて発送する際に、必ずお寺からの手書きメッセージを添えたカバーレターを同封しています。お寺の人たちは、届け先にいるお母さんや子どもたちの暮らしぶりに思いをめぐらせながら、手紙をしたためています。
また、カバ—レターには、「近況報告や相談ごとをしてもらうきっかけになるように」という思いをこめて、受け取り確認用の連絡先を記載したところ、事務局あてにさまざまな手紙やメールが届くようになりました。
食品を買うにもギリギリの暮らしのなかで、お米やお菓子が届いたことを喜ぶお母さんからの声。支援団体のみなさんからも、「お菓子を通じて、お母さんや子どもたちとコミュニケーションがとれた」など、さまざまな声が届いています。
ひとつ、両者に共通するのは「見守ってくれる存在がいることがありがたい」という言葉です。
(編集協力:杉本恭子 写真:藤井崇文・栗本恵里)