ITサービスの導入と慈悲の実践

おてらおやつクラブ事務局の桂 浄薫です。

2014年にスタートした「おてらおやつクラブ」も、はや4年半が経過しました。賛同くださるお寺さまや団体さまが増えると共に、事務局体制を整えていくなかで事務局メンバーも増えました。メンバーが増えるのは嬉しいことですが、人が増えると情報共有が確実になされるよう注意しなければいけません。

そこで、おてらおやつクラブ事務局ではITサービスをフル活用して、確実にそして速やかに情報共有を図っています。今回はそのようなIT活用術の一部をご紹介しますが、その前に私たち事務局メンバーの状況について書いてみたいと思います。

事務局メンバーの日常

現在10名を超えた事務局メンバーは、年齢も居住地も宗派もさまざまです(お坊さん以外のメンバーもいます)。皆に共通して、葬儀や法事、檀家さんや門徒さん宅へのお参り、墓参りなどお寺の法務に忙しくしています。メンバーには住職の者もいれば副住職の者もいますが、それぞれ責任ある立場で法務に携わっています。

また、メンバーは30代〜40代が多く、子育て真っ最中。子どもの送り迎えや寝かしつけ、子どもが急に風邪を引いた時の対応など、子育てに割く時間も少なくありません。家族サービスも大切ですよね。子育て中ではないメンバーも含めて、プライベートな時間もないがしろにはできません。お坊さんはお寺にいて家族と一緒にいる時間が長いので、家庭事情に影響を受けることも多かったりします。「ファミリーポイントをどれだけ維持・獲得できるか?」代表の松島が常に事務局ミーティングで議題に上げている話題でもあります。

そのような法務やプライベートの合間を見つけて、あるいは早朝や深夜などの静かな時間に、「おてらおやつクラブ」の事務作業を行っています。その時間を見つけるのは実際大変ですが、それでも支援の輪を広げていくため、貧困問題解決のため、子どもたちの笑顔のために、メンバーそれぞれができることをできる範囲で関わっています

もちろんお坊さんとして、自坊(自分がいるお寺)の法務が第一優先であることは言うまでもありません。葬儀が入ることもありますし、急な予定変更も日常茶飯事。それでも何とか力を合わせ、工夫しながら活動を展開していく必要がありました。

しかし多くのNPOやボランティア組織は、ほとんどのメンバーが別に仕事を抱えていて、NPO等の会議や作業は夜遅くということが多いようです。そういう意味で、「おてらおやつクラブ」事務局メンバーの状況は何も特別なことではないと言えます。それなら尚更、私たちが課題とし解決策とすることは、他のNPO等にも当てはまると考えられます。以下、私たちの事例が参考になれば幸いです。

ITサービスの導入

私たちは早くからITサービスの導入を積極的に進めてきました。賛同者がどんどん増えるのは嬉しい反面、みるみる内に事務作業量が膨大になっていき、ITサービスでの効率化は急務でした。時間的・地理的に制約のあるメンバー同士にとってもIT化は必須であり、制約があるからこそIT化が早く進んだという一面もありました。

まず着手したのは、活動の根幹をなすメール対応と支援のデータベース化でした。

【メール対応】かんたんメール共有ツール『サイボウズ メールワイズ

事務局には日々たくさんのメールが届きます。多い時はひと月に1,000件ものメールが届きます。お寺からの発送報告、支援団体からの受け取り報告、支援者からの寄付のご連絡、支援物資を提供したいというお問い合わせ、お母さんからの「助けて」という声、さまざまな問い合わせがあり、それらに漏れなく対応していく必要があります。

膨大なメール一つひとつに目を通し、必要に応じてメンバーで対応を検討します。返信済みか、まだ検討中か、至急対応が必要か、などの対応状況を確認するのに最適なシステムがサイボウズ社が提供する『メールワイズ』でした。企業の業務システムとして定評あるサイボウズ製品の一つで、事務局業務の要であるメール対応において今や欠かせないツール。いつでも対応状況を把握するのが容易で、過去の対応履歴もさかのぼって確認できて、非常に便利です。

NPO向けに格安料金プランがあるのですが、実はサイボウズ社の取り計らいでNPOになる前からNPO料金を適応してくださいました。私たち「おてらおやつクラブ」の活動に深く共感いただき、ITツールの導入促進という面でご支援いただけたことも非常に有り難いことでした。

【データベース化】世界最大のクラウド型CRM(顧客管理)システム『Salesforce

当初、活動に賛同くださるお寺と支援団体、そしておやつを受け取る家庭を管理するため、それぞれをExcelシートにリスト化しました。また、どのお寺からどこへ「おすそわけ」が発送され、何人の子どもに届いたのか、日付と共に記録するシートを用意。主にこの「おすそわけ発送・受取記録」シートを日々更新することになりました。

多くの団体や活動において、初期段階ではExcelなど表計算ソフト(以下、Excelで代表)を使ってデータ管理されることでしょう。それが最も手軽ですし、最初はそれでデータの管理も共有も充分可能だからです。しかし「おてらおやつクラブ」の場合、見る見るうちに情報量が膨れ上がり、すぐにExcelでは管理しきれなくなりました。

Excelの限界が近づいてきた頃、データ管理の課題を一挙に解決すべく導入を決めたのは、セールスマンの営業支援システムとして業界トップシェアを誇る『Salesforce(セールスフォース)』でした。多くの企業で採用されているため信頼性が高く、機能も豊富、使い勝手も申し分ありません。導入に際してのサポートも手厚く、さらにNPO向けにシステムを無償提供されていることも採用の決め手となりました。

その他、多くのITツールを利用しています。日常の意見交換はLINE、文書や写真などのファイル管理はDropboxなど、有名なツールも利用しています。ツール自体は完成度が高いものが多いので、私たちの運用方法も常にバージョンアップしています。使い方を見直すことで、事務局業務で課題となっていることが浮き彫りになることがあるからです

慈悲の実践

しかし振り返れば、こうしてITサービスをよく導入していたと我ながら感心する事態も起こりました。フジテレビ『Mr.サンデー』で特集いただいた際には問い合わせが殺到し、メールワイズがなければとても対応できませんでした。

また、この数年の間に支援団体の活動内容が変化したり、家庭の親子が引越したり生活状況が目まぐるしく変わるなかで、漏れなく情報を更新し共有できたのはセールスフォースのお陰でした。

さらに、メンバーが住職を継承したり、結婚したり、子どもが生まれたり、ますます忙しくなる状況のなかで活動を継続できたのは、多くのITツールあればこそでした。

冒頭で、時間的・地理的に制約あるメンバーだからこそ、ITサービスの導入が必須だったと述べました。ただし、さまざまな制約があっても時間のやりくりがどんなに大変であっても、実は私たち事務局メンバーはそれを苦しいとは思っていません

なぜなら、「おてらおやつクラブ」に携わることは、お坊さんとして「困っている人に手を差し伸べる」「助けてという声に寄り添う」という慈悲の実践に他ならず、そのような慈悲を発揮できる場があることは実に有り難いことだからです。特に「おすそわけ」という行為を通じて、「仏助」させていただけることが喜びでもあります

助けたまえ仏さま 〜仏さまが支える「おてらおやつクラブ」の支援〜
https://otera-oyatsu.club/2018/04/directsupport/

「すべての人を救い取る」という仏さまの慈悲とは到底比べ物になりませんが、私たちのできる精一杯の慈悲を実践していくことの大切さを感じています。ITサービスは便利で業務上欠かせないものになりましたが、それ以上に「おてらおやつクラブ」の活動の根底にはお坊さんとしての慈悲の実践がなくてはならない、と再確認することとなりました

皆さま引き続き「できることをできる範囲で」のご協力、どうぞよろしくお願いいたします。