学生と地域課題と街づくり~「奈良ソーシャルクリエーションキャラバン」を企画して学んだこと~

先日報告記事をアップした「奈良ソーシャルクリエーションキャラバン」を企画・主導してくれた大学院生・安西崇(あんざいしゅう)さんが、企画実施に至るまでの経緯やそこでの学びをレポートにまとめてくれました。

▼【参考】奈良ソーシャルクリエイションキャラバン2021開催のご報告
https://otera-oyatsu.club/2021/09/nscc2021_report/

ぜひご一読ください。

—▼以下、安西さんからのレポート—

こんにちは!
僕の名前は安西 崇(あんざい しゅう)といいます。
奈良県生駒市にある奈良先端科学技術大学院大学で院生をやっている23歳です。
今回は認定NPO法人おてらおやつクラブさま(以下、OOC)と奈良工業高等専門学校竹原研究室(以下、奈良高専)の主催イベント「奈良ソーシャルクリエイションキャラバン2021」というイベントの開催報告について、寄稿させていただくことになりました。
なぜ僕なのかということも含めて、今日のお話は少しだけ長くなりそうなので目次をつけておきます。

1.キャラバン開催に至るまで
2.実施報告
3.キャラバンを通じて学んだこと

1.キャラバン開催に至るまで
まずちょっと昔の話をします。
僕は奈良先端大に入るまでの7年間、大和郡山市にある奈良高専に通っていました。
21歳の時、僕はとある友人に連れられ田原本町にある安養寺を訪れます。
そこにいたのは、「大企業からベンチャーに転身し、出家してお坊さんに」「その後お坊さんとしてNPO法人おてらおやつクラブを立ち上げ、その取り組みが評価されてかのグッドデザイン大賞受賞」みたいな破天荒なキャリアを辿ってきた松島靖朗住職そのひとでした。

初めてであった時から「こういう人が社会を変えていくんだ」と感じさせるような、とても落ち着いていて、それでいて堂々とした佇まいでいらっしゃいました。
気が付くと僕は、田原本のお寺まで足繁く通うようになっていました。


おてらおやつクラブ事務局のある安養寺で、ボランティアの後に

これまで机上の空論としてしか触ったことのなかった「社会貢献」。その現場は非常に刺激的なものでした。
実際にOOCの活動に助けられたお母さんたちの喜びのメッセージや、松島さんに一目会いたくてわざわざ海外から田原本まで足を運びに来てくれた方など、多くの人々の生の「声」に実際に触れることができたのです。

やがて僕が奈良先端大に進学してすぐの頃、奈良高専では竹原信也先生という熱意溢れる社会科の先生が、学生たちに地域課題に興味を持ってもらうべく授業づくりに奮闘していらっしゃいました。

その取組みの一つがOOCによる奈良高専での出前授業です。講師を担当された大橋伸弘和尚のお話を聞いた奈良高専の学生たちは、この国の貧困問題の現状に大きなショックを受けていたそうです。
授業の中では、貧困問題を解決するための高専生らしいアイデアも飛び交ったと聞いています。
この高専生たちの持つエネルギーを実際に貧困問題の解決に繋げられないかということで、今回のイベントの初期構想が生まれたのです。

イベントの企画にあたって、奈良高専とOOCの両方に深いご縁があった僕のところには、すぐにお声がかかりました。いつの間にか、竹原先生(高専教員)と大橋さん(お坊さん)と僕(大学院生)というかつてなかったであろうチームでの本格的な企画作りが始まっていたのでした。
「奈良ソーシャルクリエイションキャラバン2021」という名前は、この時に僕が付けました(笑)

2.実施報告
イベントはアイデアソン・ハッカソンの2部構成での開催となりました。
アイデアソン・ハッカソンとは、アイデア(Idea)、ハック(Hack)とマラソン(Marathon)を掛けあわせた造語で、参加者がグループになって与えられたテーマについて集中的にアイデアやサービスを考案あるいは実装し、斬新さや技術の優秀さなどを競うイベントのことです。
2000年代に生まれ、現在では企業や行政、大学などが産業やアート、教育などさまざまな分野でイノベーションを生み出すためのイベントが開催されています。

今回は「貧困問題」にフォーカスしたアイデアソン・ハッカソンを開催することで、課題の現状を参加者と共有し、課題解決に向けた取組みのきっかけを創出することが企画の目的でした。


グループワークを円滑化するためワークシートの設計から行いました

第1部アイデアソンは9月1日と2日、第2部ハッカソンは11日から18日に開催されました。
感染拡大の影響を受けてオンラインでの開催となったのですが、2日間と1週間に渡り、延べ100名以上の方にご参加いただき大盛況でした。
期間中はOOCの特別講演のほか、高専ベンチャー株式会社代表取締役の澤木陽太郎さまや奈良先端大助教の松田裕貴先生にもご講演いただき、参加者の皆さまには課題解決のヒントをインプットしていただく機会もありました。

18日の最終発表会は公開イベントとして開催され、多くのオーディエンスが見守る中、各チームの皆さんには成果報告のプレゼンテーションをしていただきました。
各チーム、課題に対する斬新な切り口を見つけ出し、豊かな発想で具体的な解決策を提示してくださり、進行役だった僕自身とても多くの気づきを得られました。


「奈良県コンベンションセンター」を本部として、各地の参加者とリモートでつなぎ企画を進行しました

3.キャラバンを通じて学んだこと
僕自身が考えさせられたことについて述べておきます。
「貧困」といえばSDGsの1番目の目標にも提示されているように、世界的に注目されている重要な社会課題の一つです。当然、奈良県下も例外ではなく、今現在OOCの支援活動によって助けられているご家庭も多く存在します。

今回改めて貧困問題について考えたとき、この問題のタチが悪いところは、世間から押し付けられる自己責任論であると感じました。自己責任論による主張は、理由はどうあれ現に今困窮している人を見捨てる姿勢であり、決して気分のいいことではありません。

それに、仮に困窮の原因がひとり親家庭の親にあったとしても、その子どもの成育に悪影響があることは全く別の問題です。
かろうじて生活はできているが「新しいランドセルが買えない」「修学旅行に行けない」などの相対的貧困という状況が長期間続くことで子供たちに及ぼす悪影響は計り知れません。
しかもこの子どもたちの相対的貧困とは、対象者に障害者手帳を発行されるようなものでもなく、人知れずクラスに溶け込んでいたりするものなので、支援しようにも「そもそもどこに困っている子どもがいるのか」ということが外側からわかりにくいという厄介さもあります。

こういった外側からは見えにくい問題に対して、どうアプローチしていくのでしょうか?
僕にとって今回一番の学びとなったことは「この問題の解決の一端を担うのは、地域全体の当事者意識である」ということです。
日本の「貧困」に直面している子供の数は280万人(大人の数ではありません)とも言われています。
正直、国や県が主導する支援制度ではこれらをカバーできているとはとても言い難いでしょう。もっと網目を細かくした支援の輪が必要です。この支援の輪こそ、地域全体の当事者意識によって構築していくべきものだと考えています。

地域に困窮する人がいるということは、そこに解決すべき問題があるということ

こういったマインドセットを広げていければ、その地域は誰にとっても住みやすい地域になると確信しています。

今後の自分自身の活動でも、貧困問題に限らず、これまで以上に地域の人々の意図を汲み、より有意義な街づくりについて考えられるよう精進していきたい。そんな風に考えさせられました。

私事ですが、僕は次の春に9年過ごした奈良を離れることになりました。
このキャラバンを含め、奈良県で学んだことは僕の人生に非常に大きな影響を与えたことは間違いありません。また数年後に社会人として課題解決のプロフェッショナルになってから、この街に何らかの恩返しがしたいと思っています。何かに恩返しがしたいと思えることは、とても幸せなことです。このように、自分と地域のことに改めて向き合う機会を一緒に作り上げてきたすべての関係者の方に厚く御礼申し上げます。
本当に、ありがとうございました。

2021年10月3日 安西 崇


キャラバンの最後に記念撮影!