助けたまえ仏さま 〜仏さまが支える「おてらおやつクラブ」の支援〜

「おてらおやつクラブ」は、2013年5月に大阪で起きた母子餓死事件を受けて発足し、2014年1月に本格始動しました。二度とこのような悲劇を引き起こさないため「お寺に何ができるか」を考え続けて奈良県安養寺住職・松島靖朗が導き出したのが、お寺の「おそなえ」を仏さまからの「おさがり」として頂戴し、みんなに「おすそわけ」していく活動です。

お寺さまは「おすそわけ」を、ひとり親家庭や子どもたちを支援している団体さまに届け、団体さまは受け取った「おすそわけ」をさまざまな場面で利用することで、お母さんたち(支援を必要とするお父さんも含めて、以下お母さんたちと総称)とつながりを深めていただいています。

2014年から4年が経ち、全国に支援の輪が広がり、「おてらおやつクラブ」の活動も徐々に知っていただけるようになってきています。今では、全国47都道府県のお寺さまと団体さまが登録してくださり、お寺と団体が連携することによって、支援団体さまとご縁あるひとり親家庭や子どもたちをサポートするという支援体制が整うようになってきました。

事務局ではこの支援体制を団体さまへの「後方支援」と位置づけています。団体さまの活動が充実するように、お寺さまからの「おすそわけ」でサポートするというのが「後方支援」のポイントです。しかしながら支援の輪が広がるにつれて、事務局に直接お母さんから「助けて」という声が届くようになってきました。

「離婚して引っ越ししてきましたが、当然ですが知り合いもおらず、色々相談したいです」

「子供2人のシングルマザーです。 養育費も一切貰ってないので、生活がきついです… おやつなど、送って頂けたら助かります」

「DVによって離婚し、現在5人のこどもを育てるシングルマザーです。体調があまりよくないので働きに出ることもできません。でも、子どもたちも食べ盛りなので食費がどうしてもかかってしまい、とても辛い状況です。特にこどものおやつにはなかなか予算を回せません。校外学習等おやつの必要な学校行事もあるので、援助をお願いしたいです。」

「助成金のこと、無料の塾のことなど、本当にほしい情報が入ってきません。教えていただけないでしょうか?」

当初、登録してくださる団体さまも少なく、このようなお母さんたちの声に応える術がありませんでした。結果、お母さんたちを団体さまとおつなぎできずに充分な支援ができなかったこともありました。それを思い出すと今でも悔しさがこみ上げてきます。

けれども4年経った今、これまでお問い合わせがあった100人以上のお母さんたちに専門性を持つ団体さまを紹介し、そのうち75人のお母さんたちには団体さまをおつなぎすることができました。まだまだお母さんたちの声に充分に応えることはできていませんが、登録の団体さまが各地に増えるにつれて徐々に、「助けて」というお母さんたちの声に応える仕組みが整いつつあります。

それでも、やはり紹介しきれないお母さんたちもいらっしゃいます。例えば登録済みの団体が少なくお母さんたちに団体を紹介できなかったり、お母さんたちにとって事務局が考えうる適切な団体さまを紹介させていただいたとしても、お母さんたちが働いているためどうしても時間が取れなかったり、体の調子を崩していたり、距離が遠くて行けないと諦めてしまうことも少なからずあるからです。

このような状況に直面した際、事務局はお母さんたちを社会の仕組みから孤立させてしまう結果を招いてしまいます。そうならないように団体に頼らず事務局が直接的に支援していく必要性が出てきました。この支援体制を「直接支援」と私たちは呼んでいます。

阪神大震災や東日本大震災を経て、社会の中で防災対策・災害対応が議論される機会が増えてきました。その中でのよく指摘される社会福祉の仕組みが「三助」です。「三助」には自助・共助・公助の三つがあります。

  • 自助とは、自分の身を自分の努力によって守ること
  • 共助とは、身近な人たちがお互いに助け合うこと
  • 公助とは、国や県などの行政機関による救助・援助のこと

現在では災害時ばかりではなく、平時の社会問題においてもこの「三助」が大切と言われています。さまざまな制度や人の助けがななければ、多様化する困難を解決することが難しいからです。実際、この三助によって大いに助かっているお母さんたちもいます。ただ、国内の貧困問題の深刻さは震災同様とまでは言わないまでも、多くのいのちの問題に関わる状況であり、日本の将来に大きく影響があるということから、緊急事態の社会問題として受けねばなりません

もし「三助」を受けることができないと一体どうなるのでしょうか?

例えば、ひとり親のお母さんたちにとっては家族の支えが弱く、「自助」自体が難しいでしょう。自分がひとり親であることを打ち明けられない、またレッテルを張られるのが嫌だ、そのような状態では「共助」も望めないでしょう。生活保護を受けることの難しさ、恥ずかしさから手続きに行けない、また窓口に知り合いがいて申請しづらい、などの場合は「公助」が難しくなります。

どんな制度や助成についても条件を満たすことができず、取り残されてしまう状況が少なくないということが、お母さんたちからの声を通じてわかってきました。現在の生活のしづらさを強いられ続け、状況を一変する情報も労力も自力で捻出できず、困難な状況から抜け出すことがさらに難しくなることが予想されます。

そこで私たち「おてらおやつクラブ」は、その状況下にあるお母さんたちに「仏助」を掲げて対応していくことを決めました。

「仏助」とは、仏さまが私たちを見捨てず救い取ってくださる大慈悲のはたらきのように、わたしたちも慈悲の発露をし、この「三助」から漏れ落ちる人たちの受け皿となり、「三助」に戻していくことです。困っているお母さんたち一人ひとりをなんとか助けたいという気持ちが「仏助」の原動力となり、後方支援にとどまることなく必然となって出てきたのが、この「直接支援」なのです。

お問い合わせがあったお母さんたちへの対応は、以下のように進めます。

  1. お母さんたちからの相談が事務局へ届く
  2. 事務局から返信する際、ご家庭の詳細情報と困っていることをお聞きする(お名前やご住所などの他、「おてらおやつクラブ」に望まれること、「おてらおやつクラブ」を知ったきっかけ、受給している公的支援など)
    https://otera-oyatsu.club/parents/consult/
  3. 詳細情報についてお母さんたちから回答があると、その情報を元に居住地域となるべく近い適切な団体を紹介する
  4. お母さんたちが団体に連絡をし、関係が生まれる【三助に戻す】

団体とうまくつながった場合、お母さんたちは団体の支援対象のお一人となります。お寺さまから「おすそわけ」が団体さまに届き、その「おすそわけ」を団体さまの支援活動の中でご利用いただくことで、お母さんたちへ支援が行き渡ります。

団体さまを探したり紹介したりすることと並行して、おてらおやつクラブ事務局からの「直接支援」が始まります。

お母さんたちには「おすそわけ」の受取報告と、定期的な「おすそわけ」希望連絡を事務局までメールでお願いし、密に連絡をやりとりできるような機会を作っています。連絡をやりとりする中で、日々の相談をしてもらったり、有益な情報があればお伝えしています。そのようなやりとりをする内に適切な団体さまが登録されれば、ご紹介しおつなぎします(上記④)。

事務局が「直接支援」で大切にしていることは、団体さまとつながっている・いないに関わらず、「おてらおやつクラブ」に相談してくださった方を、「伴走して見守る」ということです。近くにいることはできないけれども、近くにいるように寄り添い、話をお聞きしていく。そして団体さまにつながったとしても、相談窓口として門戸を開いておく。そうすることで「孤立」しないように寄り添っていけることも「直接支援」の重要な役割である、と考えています。本来ならば「顔が見える支援」として、直接お会いして支援を行うことが理想ですが、さまざまな事情で「顔が見える支援」の難しさもあります。インターネット社会となった利点を最大限に生かし、メールを主とした連絡手段で寄り添いと見守りとして「顔がみえない支援」を実践しています。

相談をお受けしていく中で、お母さんたちにも変化が生まれてきました。

初めは「おすそわけ」希望連絡のメールだけでしたが、それ以外にも連絡がまめになり、回を重ねるごとに日々の生活の苦しさや今起きていることをご相談されるようになりました。一方、そんな日々も大変だけれども子どもたちと楽しむ様子、子どもたちの先々を思いやる前向きな内容もどんどん増えてきました。

また、私たち事務局が反対に気付かされたことがあります。顔が見える支援は関係性が築きやすい反面、本音を打ち明けることができないとお母さんたちは言われます。けれども私たちが実践している顔がみえない支援は、お母さんたちが本音を打ち明けられる状況であるということと、本音を打ち明けたら答えてくれそうと思う気持ちになれるということを伝えてくれました。また、その背景には今まで歴史を刻んできた「お寺」や「仏教」、「お坊さん」への存在があることを教えてくれたお母さんたちもおみえでした。

事務局は日々の苦しみやご相談を受け、お母さんたちが今伝えたいことに耳を傾けます。またそれだけでなく、前向きになってくれた気持ちをもっと後押しができるように、誕生日カードをお送りしたり、季節のイベントのおやつを発送したり、そしてお母さんと事務局でしかわかりえないメールのやりとりを積み重ねていくことで、お母さんたちの心と事務局の心がつながるよう取り組んでいます。

このような関係性を元に、今までの経緯を団体さまにお伝えした上で、お母さんたちの支援を引き継いでいただきます。もちろん引き継いでいただきながらも、お母さんたちと事務局の直接支援の関係は継続していきますが、「社会の三助に戻す」この一連の流れこそ、仏助たる大きな支えあっての私たちのすべき「直接支援」の目的です。

今現在、おてらおやつクラブ事務局では月に約30家庭ずつ「おすそわけ」し、約90世帯の家庭に定期的に「おすそわけ」を届けています。お母さんたち一人ひとりのお話に耳を傾け、丁寧に寄り添っていけるよう心がけています。

後方支援をしながら必要性がでてきた直接支援。まだお母さんたちの思う支援には充分ではありませんが、その直接支援を真剣に考えていく先に私たちの思い描かねばならない本当の後方支援の在り方も新たに垣間見えてきました。まだまだこれからではありますが、お母さんが社会から孤立をしないように、仏さまのおこころのごとく、「仏助」を持って寄り添い見守っていきます。また、「できることを、できる人が、できるだけ」のごとく皆様方お一人お一人に活動を見守っていただきたく、いつまでもお支えくださいますようお願い申し上げます。