中国・杭州での講演会

4月26~28日にかけて、中国のIT企業「Alibaba(アリババ)」にご招待いただいて代表・松島靖朗が講演をいたしました。

参加したのは「UCAN大会」というAlibaba Design主催のカンファレンスです。
「ビジネスを、シンプルで美しいものにする」という理念のもと、中国内外からさまざまな分野の専門家が集って活動の成果や課題を共有したり、プロダクトが展示されたりしていました。

今回おてらおやつクラブに声が掛かったのは、仕組みのデザインにより社会課題の解決に貢献しているという点に関心を持たれた方が多かったからとのこと。昨年のグッドデザイン大賞受賞のニュースが中国でも報じられたことも影響していたようです。

会場は「杭州国際博覧センター」で、かつてG20サミットも開かれたことがある大きな建物です。約4,000人もの聴衆が集まり、そのうちのほとんどが20~30代とのこと。成長著しい中国の新進気鋭のデザイナーたちが一堂に会している様子は圧巻でした。

松島の直前のプレゼンターは、最近日本でもサービス展開されている決済アプリ「アリペイ」の設計総監だったのですが、そのタイトルはなんと「無我設計(無我のデザイン)」。無我とは、言わずと知れた仏教の旗印の一つ「諸法無我(=世界のすべての物事は、持ちつもたれつ互いに繋がり影響しあって、それぞれの存在が成り立っている)」のことです。

その方は、「これからの時代は自分の利益だけを考えるのではなく、大局的に世界を捉え、困窮している人を助けることを視野に入れてデザインの方向性を決めていかねばならない」という旨のことをおっしゃっていました。そして「無我についての具体的な話は、この後日本から招いたお坊さんが語ってくれるでしょう」と。

国際的に見ても大きな利益をあげているIT企業が仏教の智慧を参照し、利他の行いを企業運営の楔(くさび)としようとしていることに驚きました。我々が呼ばれたのも、仏教の教えを基盤にした活動の在り方を詳しく学びたい、という意図があったのかもしれません。

それを受けての松島の話は、次のような内容でした。

◆日本の社会課題は、今後の世界の課題となりうる。
◆「デザイン」を考える上では、源流を大切にしながら、多くの人が「その通りだ」と納得できるストーリーを編み上げ、そこにさまざまな人が関われるよう仕立てていくことが肝要。
◆おてらおやつクラブの場合は、お釈迦さまの教え(仏法)を源にしつつ、子どもの貧困問題という社会課題に目線を合わせることで多くの人の共感を生み、その解決のために関わりやすい仕組みを構築してきたというところが「グッドデザイン」として評価されたと考える。
◆おてらおやつクラブの活動を下支えしているのは人々の「てばなす」行為。独り占めすることなく、皆で分かち合うことで喜びが生まれる。これは仏教の基本理念と通じる。
◆世界的に見ても課題は山積しているが、悲観することはない。実は私たちはその解決策をすでに持っているかもしれないという視点のもと、皆でより良い社会を創っていきたい。

講演後、多くの聴衆の方が「素晴らしい活動ですね」と声をかけてくれたり写真を撮ったりしてくれました。
一方で「日本に子どもの貧困問題があるなんて知らなかった。豊かな国だとばかり思っていたのでびっくりしました」と驚きの声も。

社会の中に貧困問題があるという事実そのものは、日本も中国も変わりがありません。
ある課題に向き合ったときに、「その課題の原因は何か?」「どうやったらその課題が解決できるか?」「自分には何ができるか?」と一人ひとりが考え、課題解決のためにできることを積み上げていくことが大切なのは万国共通でしょう。

この講演がきっかけとなり、中国の若きデザイナー、クリエイターたちが貧困問題の実情を知り、自分自身にできることを考えて社会のみんなが幸せになれるようなデザインや技術を創ってくれたら、住みよい世界ができるかもしれないーーそんな願いにも似た希望を胸に抱きつつ、帰路につきました。

中国で改めて教わった利他のこころと、Alibabaの皆さまからの激励を糧にしながら、引き続き日本での活動を続けてまいります。
この旅を支えてくださったすべての方に、心からお礼を申し上げます。